改訂新版 世界大百科事典 「国衙法」の意味・わかりやすい解説
国衙法 (こくがほう)
平安時代中期以降,地方政府である国衙(国府)が管内で施行した法。律令体制の支配秩序が崩壊しはじめると,地方の国衙では支配を維持していくために律令法を修正しながら,各地方の慣習をも取り入れて地方の実情に即応できる,新しい法を作りだしていった。9世紀後半から10世紀にかけて出現するこのような法は〈国例〉とか〈当国之例〉等と呼ばれるが,このような例=慣習法の集積されたものを国衙法と総称する。したがって国衙法は律令のような法典をもたず,その効力も一国内に限定される。例えば,律令制下では人別に賦課されるのが原則であった官物(かんもつ)は,段別に賦課されて地税化し,その際の賦課基準は段別3斗というように,一定の率が国例として固定していくが,それはあくまでも〈当国之例〉であって,かつての律令のように全国一律に通用するものではなかった。国衙法は行政管轄の面から見れば,公家法の下に属するものであるから公家法の一種といえなくもないが,国衙領が国衙の所有する荘園のごとき観のあることを考え合わせれば,その実態はむしろ荘園領主法に近い面をもっていたともいえよう。
執筆者:清田 善樹
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報