初期の仮名書き例は見出しがたいが、鎌倉時代の「千葉本大鏡」や「中院本平家」では「クヮンモツ」が使われ、後の「文明本節用集」や「日葡辞書」も同様である。中世以前では「クヮンモツ」の方がより一般的であったか。
奈良~平安時代初期(8~9世紀),律令制のもとでは,租・調・庸・正税(しようぜい)など租税として官庫に納入されたものを官物と総称していた。ところが10世紀以降,律令国家の支配がゆきづまり,成年男子をおもな対象として人別に課税する律令徴税制度が崩れてくると,国家は徴税方式を改め租税の地税化をすすめるようになる。その結果,租・正税などは田1反を基準に課せられて,以後この地税が〈官物〉と称され,人別賦課形式をとる,もう一つの課税である〈臨時雑役〉とならんで,平安中期(10~11世紀半ば)の国家の新たな徴税体系の柱となった。もっとも当初は,租・調などの個々の律令税目まで廃止されたわけでなく,官物・臨時雑役とはそれぞれ地税・人頭税の総称であったが,988年(永延2)の〈尾張国郡司百姓等解文〉によると,遅くとも10世紀末には,税目ごとの区別は事実上失われ,田1反あたりいくらで官物総額が課せられるようになっている。また官物の品目は名目上は米であるが,現実の収納にあたっては,国司が必要に応じて米やさまざまの手工業製品(絹,布など)で納めさせるという方式が行われていた。こうした過程をへて11世紀半ばになると律令税目もまったく消滅し,新たな税制〈公田官物率法(こうでんかんもつりつぽう)〉(官物率法)が成立するに至った。
公田官物率法の一例として1122年(保安3)の伊賀国在庁官人の解(げ)(上申書)にみえる同国の制度をあげると,公田段別,見米(げんまい)3斗,准米(じゆんまい)1斗7升2合,油1合,見稲1束,穎(えい)2束となっている。率法は地域によってかなり異なり,東国では布を基本にしていた。しかし一般的には,米納を原則とする見米と,絹などで代納する准米・穎稲の2本立てで,総額は公田(国家により掌握された田地)1反あたり6斗前後というものであった。公田官物にはそれ以前の臨時雑役系の課税も含まれており,ここに律令制徴税制度は完全に廃絶したのである。もっとも収納にあたっては原則どおりでなく,依然として国司側が恣意的にさまざまな物品を貢納させたが,これは当時,田地以外の土地に対する国家の徴税がまだ行われず,国家は公田数を唯一の基準にして必要とする田・畠・手工業生産物を〈公田官物〉という形で収取せざるをえなかったためである。
公田官物は12世紀にはいると,農民の抵抗・減額要求などで次第に徴収不能となり,国家の畠地・在家(ざいけ)(屋敷地)に対する課税の開始とあいまって,平安末期(12世紀半ば)には各国で反別見米3~5斗の率法へと改変された(ただし東国など制度の異なる地域もある)。そして鎌倉時代初頭の荘園制支配の完成に際しては,この新たな率法が田地年貢基本額の先例として継承された。また荘園制下でも,〈官物〉の語は田地に対する領主の基本的課税という意味をもち,南北朝時代ごろまで引き続き使用された。
→正税 →租 →調 →庸 →臨時雑役
執筆者:斉藤 利男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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令(りょう)制下で官に納入する諸税の総称。荘園(しょうえん)制においても、所当(しょとう)の年貢を官物と称した。
[編集部]
律令制下においては官有物ないし官が収取した租税をさす。のち平安後期以降の荘園公領制下では,最も基本的な地税として所当官物ともいわれ,たてまえでは人別賦課である臨時雑役とともに収取された。段別3斗程度の賦課基準は公田官物率法というが,その由来は必ずしも明確ではない。荘園においては,公領の官物相当分を年貢という呼称で継承した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
…したがって国衙法は律令のような法典をもたず,その効力も一国内に限定される。例えば,律令制下では人別に賦課されるのが原則であった官物(かんもつ)は,段別に賦課されて地税化し,その際の賦課基準は段別3斗というように,一定の率が国例として固定していくが,それはあくまでも〈当国之例〉であって,かつての律令のように全国一律に通用するものではなかった。国衙法は行政管轄の面から見れば,公家法の下に属するものであるから公家法の一種といえなくもないが,国衙領が国衙の所有する荘園のごとき観のあることを考え合わせれば,その実態はむしろ荘園領主法に近い面をもっていたともいえよう。…
※「官物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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