日本大百科全書(ニッポニカ) 「国際金融のトリレンマ」の意味・わかりやすい解説
国際金融のトリレンマ
こくさいきんゆうのとりれんま
open-economy trilemma,impossible trinity
国際的な資本移動の自由化、固定為替(かわせ)相場制(あるいは安定的な為替相場制)、自立的な金融政策の遂行という三つの政策を同時に実現することはできない、という国際金融論の命題。トリレンマの原義は三者択一ないしは三重苦であるが、この場合は三者のうち一つだけが選択できないという意味で使用されている。
もともとは、外国為替相場制度と金融・財政政策の効果を議論したマンデル‐フレミングモデルが原点である。英語表現においてopen-economy trilemmaという一般化した名称は、M・オブストフェルドとA・M・テイラーによって名づけられた。impossible trinityと表現することもある。
たとえば、国際資本移動が自由化されたなかで、ある国が金融の引締めを行い金利が上昇すれば、その国へと資本が移動するため、固定為替相場制は崩壊してしまう。それを防ぐためには、国際資本取引を規制するか、さもなければ相手国に追随し、同じ金融政策をとる以外にありえない。
現実に、世界各国はこの原理に基づいて、政策選択をしている。たとえば、EUは資本移動の完全自由化を1992年までに実施し、その後単一通貨ユーロを導入したため、各国に金融政策の自由はなく、ヨーロッパ中央銀行が単一の政策を実行した。つまり、EUは為替相場自体がないという厳格な固定為替相場制と資本移動の自由化を採用した結果、金融政策の自立制を放棄するという選択をせざるをえなかったということである。
一国の政策を遂行するうえでは、欠かせない基本原理となっている。
[中條誠一]