外国為替相場の変動をごく狭い一定範囲内に限定する制度で、金本位制度および変動為替相場制移行前の国際通貨基金(IMF)固定平価制がその典型。これに対し、変動幅を設けないで、為替相場を自由に変動させる制度を変動為替相場制という。
[土屋六郎]
国際的に金本位制度が採用されていると、各国の通貨の交換比率は、それぞれの国の金貨一単位に含まれる金の分量を比較して得られる金平価となり、為替相場はこれに金の現送費用を加減した金輸出点と金輸入点の範囲内に収まる。なぜなら、為替相場が現送点を超えようとすれば、金による決済に比べて外国為替による決済のほうが不利となり、したがって現送点の範囲外では外国為替の需給はおこらないためである。現送点の幅はおもに国と国との距離によって異なるが、金本位時代には金平価の1%内外であった。
[土屋六郎]
第二次世界大戦後、IMFは戦前の平価切下げ競争の苦い経験にかんがみ、為替の安定を図るため、加盟国に平価を維持させ、為替相場の変動を平価の上下1%内に抑えることを義務づけた。加盟国は、為替相場がこの上下限を超えようとする際には、市場介入によってそれを阻止した。なお、この制度では、平価は絶対固定ではなく、加盟国が基礎的不均衡に陥った際には変更することができる(調整可能釘(くぎ)付け相場制)。1971年8月のニクソン・ショックでこの制度は崩壊し、その後同年12月のスミソニアン協定によって変動幅が2.25%へ拡大された固定為替相場制が復活したが、73年初めの通貨不安で瓦解(がかい)し、主要諸国のほとんどは変動為替相場制に移行した。
[土屋六郎]
各国の通貨の価値が特定国の通貨(たとえば米ドル)や金,あるいはSDR(国際通貨基金の特別引出権)その他の通貨バスケットのいずれかに釘付けされ,その変動幅が狭い範囲内に限定されているような為替相場制度をいう。略して固定相場制ということが多い。これの対極が変動為替相場制。19世紀後半から1930年代初頭までの(第1次大戦期を除く)期間における国際金本位制や金為替本位制,および第2次大戦後から71年央までのブレトン・ウッズ体制は,国際的な規模で固定相場制が採用されていた典型的な例である。しかし,73年以降に主要先進国が管理フロート制へ移行した後も,発展途上国のなかには固定相場制を維持している国が多い。その際の基準としては米ドル,フランス・フラン,SDR,複数の通貨バスケットなどを採用する例が多い。
固定相場制のなかには,取引の種類に応じてそれぞれ異なった為替相場が適用される複数相場制もあり,日本も第2次大戦後,1949年4月に1米ドル=360円の単一相場制に移行するまではそうであった。また,経常取引には単一の固定相場が適用されるが,資本取引は変動相場制のもとで行われる場合を二重相場制という。近隣諸国との間で安定した為替相場で貿易取引を行う一方,投機的資本移動により国内金融情勢が攪乱(かくらん)されるのを防止する目的で,第2次大戦後若干の欧州諸国が採用していたことがある。
なお,複数の国が通貨同盟を構成し,域内では固定相場制を,域外通貨に対して変動相場制を採用することもあり,ヨーロッパ通貨制度(EMS)はその好例である(〈共同フロート〉の項参照)。
→為替相場
執筆者:天野 明弘
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
(絹川直良 国際通貨研究所経済調査部長 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…この金平価が2国間の為替相場の基準となり,金現送(〈金本位制度〉の項参照)のメカニズムによって為替相場はこの基準から大きく乖離(かいり)することはなかった。その意味で金本位制は固定為替相場制(固定相場制)の代表的なものである。(3)管理為替相場制は,各国の通貨当局が,外国為替市場に介入して,為替相場を安定化する制度である。…
…すなわち金利平衡が成立する傾向が資本移動によって生じる。この傾向は,固定為替相場制のもとではより強くなり,国際資本市場や各国の資本市場が発達していればいるほど強い。変動為替相場制のもとでは為替相場の変動による為替リスクが存在するから,均衡化の傾向は固定相場制のもとでほど強くないが,同じ傾向はある限度内でやはり存在する。…
※「固定為替相場制」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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