日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
マンデル‐フレミングモデル
まんでるふれみんぐもでる
Mundell-Fleming model
1960年代にロバート・マンデルとマーカス・フレミングMarcus Fleming(1911―1976)によって開発された、国際マクロ経済学における伝統的なモデル。そもそも閉鎖経済モデルであるIS‐LMモデル(財市場と貨幣市場の均衡を分析するためのモデル)の枠組みを、開放経済に拡張したモデルなので、IS‐LMモデルと同様に、物価水準が一定などいくつかの仮定を置いたケインズ経済学の枠組みで分析される。なお、最近では資本移動性を含んだモデルを総称してマンデル‐フレミングモデルとよぶ場合もあるが、本来のマンデル‐フレミングモデルは、資本移動が完全である場合をいう。
ここで、資本移動が完全で、変動相場制の下、自国は小国であり、自国の利子率変化が世界の利子率を変化させることがない場合の経済政策(財政政策および金融政策)における国民所得に与える効果を以下でみてみよう。まず、縦軸に金利を、横軸に国民所得をとったとき、財政政策として政府支出を拡大した場合、IS曲線(投資Investmentと貯蓄Savingの関係を表す曲線)が右方シフトし、金利の上昇を通じて資本の流入を招くことになる。これは自国通貨を増価させるため、貿易収支が赤字化し、外需減少からIS曲線が左方にシフト・バックするので、国民所得は不変となる。つまり、財政拡張政策は無効である。次に金融緩和政策として貨幣供給を増加させた場合、LM曲線(流動性選好Liquidity Preferenceと貨幣供給Money Supplyの関係を表す曲線)が右方シフトし、金利の低下を通じて資本の流出を招くことになる。これは自国通貨を減価させるため、貿易収支が黒字化し、外需増加からIS曲線を右方シフトするので、国民所得は増加する。つまり、金融緩和政策は有効である。
他方、他の条件を同じにして、固定相場制下での経済政策における国民所得に与える効果をみてみよう。財政政策として政府支出を拡大した場合、IS曲線が右方シフトし、金利の上昇を通じて資本の流入を招き、自国通貨に増価圧力がかかるものの固定相場制下では自国通貨売り介入を行うため、貨幣供給量が増加し、LM曲線が右方シフトするので、国民所得は増加する。つまり、財政拡張政策は有効である。次に金融緩和政策として貨幣供給を増加させた場合、LM曲線が右方シフトし、金利の低下を通じて資本の流出を招き、自国通貨に減価圧力がかかるものの固定相場制下では自国通貨買い介入を行うため、貨幣供給量が減少し、LM曲線が左方にシフト・バックするので、国民所得は不変となる。つまり、金融緩和政策は無効となる。
以上のように、資本移動が完全で、自国は小国であり、自国の利子率変化が世界の利子率を変化させることがない場合、変動相場制の下では財政拡張政策は無効で、金融緩和政策が有効となるものの、固定相場制の下では財政拡張政策が有効であり、金融緩和政策は無効となる。
[前田拓生]
『大村敬一・浅子和美・池尾和人・須田美矢子著『経済学とファイナンス』第2版(2004・東洋経済新報社)』