化学辞典 第2版 「塩化ホウ素」の解説
塩化ホウ素
エンカホウソ
boron chloride
一般には,三塩化ホウ素をさすことが多いが,塩素-ホウ素間の化合物には下記のものが知られている.【Ⅰ】三塩化ホウ素(boron trichloride):BCl3(117.17).無水塩化アルミニウムに三フッ化ホウ素 BF3 を作用させると得られる.工業的には,三酸化二ホウ素B2O3やホウ酸塩に炭素を加え,500 ℃ で塩素を通じてつくられる.室温では無色の液体で,空気中で発煙する.六方晶系結晶.気体はB中心の平面三角形型分子.B-Cl1.742 Å.融点-107 ℃,沸点12.5 ℃.密度1.37 g cm-3(0 ℃).エーテルに可溶.水では加水分解してホウ酸と塩酸になる.半導体や有機ホウ素化合物の製造原料,カチオン重合触媒,金属から酸化物を除去精製するなどに用いられる.[CAS 10294-34-5]【Ⅱ】四塩化二ホウ素(diboron tetrachloride):B2Cl4(163.43).HgまたはCuを電極としてBCl3に放電すると得られる.室温では無色の液体.気体分子はCl2B-B-Cl2型で,双方のCl-B-Cl面は直交している.B-B1.74 Å,B-Cl1.73 Å.∠Cl-B-Cl122°,∠Cl-B-B120°.融点-92.6 ℃,沸点65.5 ℃.密度1.50 g cm-3(0 ℃).水と反応して次ホウ酸B2(OH)4に,Cl2 と反応してBCl3に,O2 と反応してB2O3とBCl3になる.[CAS 13701-67-2]【Ⅲ】四塩化四ホウ素(tetraboron tetrachloride):B4Cl4(185.05).B2Cl4の熱分解で生成する.淡黄色の結晶.正四面体型 B4 クラスターで,各頂点に各1個のCl原子を結合したB原子が位置する.B-B1.70 Å,B-Cl1.70 Å.融点95 ℃.乾燥空気中で自然発火する.加水分解して,水素を発生する.[CAS 17156-85-3]【Ⅳ】八塩化八ホウ素(octaboron octachloride):B8Cl8(370.11).B2Cl4の熱分解生成物に含まれる.赤色の結晶.三角十二面体の B8 クラスターで,各頂点にCl原子を結合したB原子が位置する.[CAS 32915-80-3]【Ⅴ】そのほか,BnCln(n = 9,10,11など)の報告もある.n > 8の化合物もBのクラスター構造をもつ.[CAS 12008-47-8:B9Cl9][CAS 12230-26-11:B11Cl11]
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報