改訂新版 世界大百科事典 「境膜」の意味・わかりやすい解説
境膜 (きょうまく)
laminar film
2相が接触する界面に存在して熱あるいは物質の移動の抵抗となっていると仮想される流体の静止膜。層流底層laminar sublayerともいう。境膜の厚みをd,2相の温度差をT1-T2,流体の熱伝導率をkとすると,単位時間,単位面積当りの伝熱量qは
q=(k/d)(T1-T2)
と表される。これはまた伝熱係数hを用いるとq=h(T1-T2)と表されるから,伝熱係数(熱伝達係数)と境膜厚みの間にはh=k/dの関係がある。つまり境膜厚みは伝熱係数の表現法の一つである。しかし伝熱係数にくらべると物理的な意味があり,ある程度推定可能な点がすぐれている。たとえば伝熱実験をして境膜厚みを求めたとすると,これをそのまま用いて物質移動の速さ(物質移動係数)を推定できる。これは境膜というのが,上述のように便宜的に考えられた概念ではあるが,相当程度物理的実在に対応したものだからである。物理的には,壁にそって流れる流体では壁近くに境界層と呼ばれる領域がある。これは厳密な概念で流体力学を用いて計算可能な量であるが境膜はこれに対応したものである。ただし境膜の概念は,境界層の概念が提出される以前に使われはじめている。
→伝熱
執筆者:西村 肇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報