前衛書道に対する呼称の一種。文字の形や意味にとらわれない、墨線のみによる芸術の可能性については、第二次世界大戦前の比田井天来(ひだいてんらい)に始まるが、彼はそれを「象(しょう)」または「如(にょ)」とよばれるべきだという思索段階にとどまり、実現することなく没した。その子、比田井南谷(なんこく)(1912―99)は早くから父の考えに共鳴していたが、戦後の1946年(昭和21)に「電」という字の古文を数多く配した『電字のヴァリエーションⅠ』を発表、のちには文字によらない自分の書作品を「心線(しんせん)作品」と称して書道展に相次いで出品するに至った。これを端緒に追随者も出現、書道展でも一ジャンルとして別に扱う必要が生じ、毎日書道展ではこれを独立させて「墨象」と名づけて第五部とした。これはのち「前衛書展」と名称を変えたが、墨象ということばはその後も用いられている。
[小川乃倫子]
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