古文(読み)こぶん(英語表記)Gu-wen

  • 古文 Gǔ wén

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

(1) 中国の古典散文文体の一つ。中唐の韓愈柳宗元が提唱したもの。六朝以来,その当時まで流行していた駢文 (べんぶん) は,技巧を重視するあまり,虚飾に流れ内容が空疎であって,『孟子』『史記』などの文章のもつ簡潔さ,力強さ,明快さに戻ることこそ散文の理想であるとした。その運動を古文運動といい,その主張に従って書かれた文章を古文という。しばらくは,駢文と古文とはともに行われたが,宋代に入って欧陽修らの実践によって,古文が完全に駢文を圧倒し,以後文学革命にいたるまで文語散文の主流の座を占めた。なお,前以前の古文を「秦漢古文」または単に「古文」と呼び,唐宋の古文を「唐宋古文」または「擬古文」と呼ぶこともある。 (2) 漢字の一体。秦代以前に用いられ,小篆に取入れられなかった字体をさす。 (3) 経書の一種。 (2) の字体で書かれたもの。漢の隷書 (今文) で書かれた経書に対する。

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デジタル大辞泉の解説


江戸時代以前の文。また、高等学校国語科の古典教材中、江戸時代までの国文
唐以後、四六駢儷体(べんれいたい)(四六文)に対して、秦漢以前の経史子家の用いたような散文の文体。
《「文」は、文字の意》中国、先秦時代に使われていた文字の書体で、大篆(だいてん)以外のもの。漢代に通行した隷書を今文(きんぶん)とよぶのに対していう。→今文(きんぶん)
詩文集「古文真宝」の略称

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百科事典マイペディアの解説

中国の秦以前に用いられた文字と,その文字を使って記された儒教経典をいう。漢代通用の今文(きんぶん)に対する。前漢の武帝の時,孔子子孫の家の壁〈孔壁〉から発見された竹簡の経典《礼記(らいき)》《尚書》(書経)《春秋》《論語》《孝経》と,北平侯張蒼が朝廷に献じた《春秋左氏伝》(左氏伝)がそれである。焚書坑儒(ふんしょこうじゅ)以来,散逸したとされるものが発見され,儒教経典としての真偽が問題となり,清代まで複雑な論争が続いた。
→関連項目欧陽修韓愈鄭玄蘇軾唐宋八大家

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世界大百科事典 第2版の解説

古文には広狭二義がある。広義の古文は小篆以前の文字を一括して古文という。たとえば〈説文解字叙〉の郡国の山川より出た鼎彝(ていい)のなど。狭義の古文は,秦以前において,経書に書いた文字をいう。〈説文解字叙〉の王莽(おうもう)の六書で古文壁中の書(孔子の子孫の邸中の壁から出現した竹簡類の文献)といわれるものである。壁中の書とは,魯の恭王が孔子の宅をこぼったときに得た《礼記(らいき)》《尚書》《春秋》《論語》《孝経》と北平侯張蒼が朝廷に献じた《春秋左氏伝》をいい,孔子が六経を記し,左丘明が春秋伝を記すのにいずれも古文を用いたとある。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

古文には古い字体の文字、古い文体の文章、古い時代の文章の意味がある。中国では一般には散文の一体をさし、唐初に提唱され、中唐の韓愈(かんゆ)、柳宗元(りゅうそうげん)によって成功した文章をいう。六朝(りくちょう)に発達した駢儷文(べんれいぶん)(駢文)に対する名称で、漢以前の文体を目標に独自のスタイルを打ち出したもので、宋(そう)、明(みん)、清(しん)、それぞれの時代の古文がある。駢儷文は、対句の使用、典故の利用に重点を置き、声韻(せいいん)の配合にも力を注いだ結果として、内容が空疎、浮薄になった。その弊害を打破するために、漢以前の文章に復古したのが古文である。唐初の歴史家が六朝の史書を編纂(へんさん)するとき、歴史の文章に反省を加えた結果、姚思廉(ようしれん)、房玄齢(ぼうげんれい)、魏徴(ぎちょう)、李百薬(りひゃくやく)、令狐徳棻(れいことくふん)らが、礼楽を根底に、古今を通じて美悪を述べることを主張し、劉知幾(りゅうちき)が実録をモットーとして、簡要で含蓄のある文章で一家の言を述べることを主張した。

 文人では元徳秀を中心に元結(げんけつ)、蕭穎之(しょうえいし)、李華(りか)らによって、六経(りくけい)の理想を作者が体得して文章に表すことが唱えられた。韓愈の「載道(さいどう)の古文」はそれを継承している。異端(仏教、道教)を排して儒教の道統を継ぐのが韓愈の理想であった。韓、柳および宋の欧陽修(おうようしゅう)、蘇洵(そじゅん)、蘇軾(そしょく)、蘇轍(そてつ)、王安石、曽鞏(そうきょう)を「唐宋八大家」という。

[横田輝俊]

『佐藤一郎著「古文」(鈴木修次他編『中国文化叢書4 文学概論』所収・1967・大修館書店)』

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精選版 日本国語大辞典の解説

[1] 〘名〙
① 古い文字。
(イ) 中国、秦代に創始された篆書(てんしょ)以前の文字。鐘鼎文(しょうていぶん)、蝌蚪文(かとぶん)、碑碣の大篆、亀甲獣骨文字など。また、漢代の隷書(れいしょ)に対して、秦代の篆書、籀文(ちゅうぶん)をいう。⇔今文
※名語記(1275)三「又、古文の四は也」 〔説文解字‐序〕
(ロ) エジプトやメソポタミアなどの古代の文字。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉四「尖字(〈注〉くさびなりのもじ)と称する古文を撿出せる話説をここに述ぶべし」
② 古い書籍。特に、中国、経書のテキストの一種で、孔子の旧宅の壁中などから発見された①
(イ) の字体で書かれたもの。また、それを重んずる学派。⇔今文
※菅家文草(900頃)一・漢書竟宴、詠史得司馬遷「少日纔知古文何図祖業得相分
③ 中国、古典散文の文体。六朝以後の駢文(べんぶん)及び明、清時代の科挙に用いられた時文に対して、秦、漢以前の散文。また、それを尊重する唐の韓愈、柳宗元の主張に従って、そのスタイルで書かれた散文。
※古文真宝笑雲抄(1525)一〇「古文の体は当世の人は嫌ぞ。退之が文やなんどが古文ぞ」 〔史記‐五帝本紀〕
④ 古い時代の文章。また、特に高等学校国語科の古典教材中、明治以前の詩文の称。
※申楽談儀(1430)能書く様、その三「ただ能には耳近成る古文・古歌、和歌言葉もよき也」
[2] 「こぶんしんぽう(古文真宝)」の略。〔日葡辞書(1603‐04)〕
※浮世草子・懐硯(1687)五「古文(コブン)の上巻をひらき朱をもって頭書」

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世界大百科事典内の古文の言及

【経学】より

…世にいう今文(きんぶん)学である。この,当時通行の隷書(れいしよ)つまり今文で書写されたテキストを用いた博士官とは別に,古文すなわち戦国期の篆書(てんしよ)や籀文(ちゆうぶん)などのテキストを使用する学術も,前漢末に起こった。いわゆる〈古学〉であって,〈経伝〉の訓詁解釈にすぐれ,各経書の今古文にわたる比較研究を促し,漢・魏期の〈注〉釈(故訓,校注)を残している。…

【散文】より

…それでは六朝以降今日まで,散文の名称が定着していたかといえばそうではない。中唐における韓愈,柳宗元の古文運動では,復古のスローガンを掲げて文体改革が実現した。2人は彼らの書く新散文を古文という名で呼んだ。…

【書体】より

…ただ,このときいったん滅びた文字も,ひそかに壁に塗りこめられたりして難を逃れたものが,前漢の武帝(在位,前140‐前87)のころから再び世にあらわれた。これは東方の諸国で用いられたもので,古文と称されて現在まで伝わっている。
[書体分類の沿革]
 (1)漢魏六朝 書体の分類が中国で最初に試みられるのは後漢時代で,80年ころ成立の《漢書》芸文志で,古文,奇字,篆書,隷書,繆篆(びゆうてん),虫書の六体をあげる。…

【説文解字】より

…配列の順序は〈一〉の次は〈二〉,その次は〈示〉というように,字形上の連鎖感を配慮しながら,また十二支所属の文字が最後にまとめて置かれるなど,当時中国で普通に人のいだいていた宇宙構成に関する思考をも重ね合わせて決められたものである。当時最も公式の字体であった〈小篆(しようてん)〉を親字に,最古の字体で小篆などの祖であると信ぜられていた〈古文〉,それにおくれ,やや変改を受けたものとされていた〈大篆〉すなわち〈籀文(ちゆうぶん)〉,以上2種類の字体が,親字である小篆の字体と異なるときには〈重文〉すなわち重複の文字として付録した。親字の小篆の数9353字,重文は1163字。…

【宋】より

… 宋代には文体も一変した。貴族文化の象徴ともいうべき駢儷体(べんれいたい)の文章をやめて,それ以前の古文にかえれとする運動は,唐の韓愈,柳宗元らに始まったが,なかなか普及しなかった。ところが欧陽修が古文復興を唱道すると,大きな反響をよび,形式にこだわらず達意の文章を書くことが一躍盛んになり,彼の門下からは王安石,曾鞏(そうきよう),蘇軾(そしよく)兄弟らの名文家が輩出し,以後清代まで,古文は文体の主流を占めることになった。…

【中国文学】より


【隋唐宋元時代(6~14世紀)】
 短命の統一王朝,隋のあとをうけた唐の大帝国,その滅亡のあと五代50年間の混乱期を経て建てられた宋の帝国,合わせて約700年。この時期の特色は古典詩の形式が完全に定まったこと,新しい散文(〈古文〉とよばれる)が四六文の地位を奪ったこと(古文運動),俗語文学が起こったことなどである。
[唐詩の極盛]
 詩の韻律については,沈約らの説を継承し,さらに細かい分析が進められた。…

※「古文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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