改訂新版 世界大百科事典 「大津絵物」の意味・わかりやすい解説
大津絵物 (おおつえもの)
大津絵を題材とした所作事の総称。絵の中の人物・動物がぬけ出して踊るという形が多い。(1)《大津絵姿花(おおつえすがたのはな)》 長唄。1778年(安永7)2月江戸市村座初演。作詞2世中村重助。作曲初世杵屋(きねや)正次郎。振付2世西川扇蔵。《藤かつぎの少女》(嵐小式部),《座頭》(市川滝蔵),《奴》(大谷永助)の3曲で3人による3変化形式。(2)《歌へす歌へす余波大津絵(かえすがえすおなごりおおつえ)》 長唄・清元。1826年(文政9)9月江戸中村座初演。2世関三十郎ほか。作詞勝井源八。作曲4世杵屋六三郎・初世清元斎兵衛。振付藤間大助(2世勘十郎)・4世西川扇蔵。《藤娘》《天神》《奴》(長唄),《船頭》(清元),《座頭》(長唄・清元)の5変化所作事。(3)《連方便茲大津絵(つれをたよりここにおおつえ)》 長唄・富本。54年(嘉永7)7月江戸中村座初演。10世杵屋六左衛門,富本豊志蔵,豊後路栄五郎らの名が番付にある。座頭・弁慶・雷・瓢簞鯰(ひようたんなまず)・槍持奴を中村鶴蔵,藤娘を尾上歌柳,若衆・船頭・牛若丸を中村芝雀の配役による所作事。(4)《採筆恵の大津絵(ふでとりてめぐみのおおつえ)》 57年(安政4)10月江戸森田座初演。常磐津・長唄。岸沢小式佐,3世杵屋正次郎の名が番付にある。《瓢簞鯰》《船頭》《藤娘》《槍持奴》を2世中村福助,《大黒》を4世坂東三津五郎の5曲で2人による5変化形式。(5)《名大津画劇交張(なにおおつえりようざのまぜはり)》 清元・常磐津。71年(明治4)3月守田座市村座合同興行で5世市村家橘,市川小団次,初世市川左団次,6世沢村訥升,6世坂東三津五郎,2世岩井紫若,3世中村仲蔵,4世中村芝翫(しかん)により初演。作詞河竹黙阿弥。清元東三郎,6世岸沢式佐らの名が番付にある。福禄寿,大黒,座頭,槍奴,若衆の鷹匠,藤娘,鬼,瓢簞鯰などの絵の人物が全部並び,各自のくだりを踊るのが他の変化物形式とは異なる特色をもつ。以上の大津絵物のうち,(2)に最もなじみ深い曲目がふくまれている。
執筆者:如月 青子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報