改訂新版 世界大百科事典 「天文年代学」の意味・わかりやすい解説
天文年代学 (てんもんねんだいがく)
astronomical chronology
天文現象を利用して過去に起こった歴史的事件の年月日を決定する学問をいう。歴史的事件は史料によって生起のときを知ることができる場合が多いが,生起の事実は明らかなのにその年月日が不明の場合もあって,とくに古代にさかのぼるほどこの傾向は顕著となる。また史料が古くなれば,たとえ生起のときが記されていても錯誤である可能性が生じ,正しい年代を確定することが必要となる。これらの目的に天文現象を利用できる場合がある。
日月食,掩蔽(えんぺい),すい星の出現などの稀有(けう)な天文現象は,とくに昔は吉凶の兆として人々に深い印象を与えたので,生起の日時は明記されなくても現象そのものは記録されるものである。一方,天文現象には偶発的なものも皆無ではないが,その多くは一定の法則に従って生起する現象であり,その場合は現象の生起時を過去にさかのぼって天文学的に推算することができる。こうしてその天文現象が起こった前後の史実の年月日を決定できることになる。
次に各国でいろいろな時代に使われてきた各種の暦の相互関係を明らかにすることは,年代学の基本問題である。年代が新しければ史料も豊富であり,暦法の性質もよく知られているので,作業は複雑でも本質的困難はない。しかし年代をさかのぼると史料も乏しく暦法も不明確となって,その暦の年月日を現行暦で同定することは困難だが興味ある問題となる。そのような場合に推論の基礎となるのも天文年代学である。
執筆者:堀 源一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報