天神記物(読み)てんじんきもの

改訂新版 世界大百科事典 「天神記物」の意味・わかりやすい解説

天神記物 (てんじんきもの)

浄瑠璃歌舞伎脚本の一系統。菅原道真(菅丞相)と藤原時平の確執,道真の九州大宰府への流罪という史実にまつわり,飛梅伝説,雷神伝説,また天満天神縁起などがある。これら道真の事蹟を浄瑠璃や歌舞伎にとり入れて脚色したもの。演劇脚本の上では能の《雷電》が先駆作。近世に入り,《天神本地》《天神御出世記》などの古浄瑠璃曲名が伝えられているが,上演年月や演者など明らかでない。加賀掾演目の中にも《天神御本地》を伝えるが内容不明。同じ加賀掾の段物集《大竹集》(1681刊)に収められた《虎巻(とらのまき)菅丞相乱曲》は,《雷電》系統のものであることがわかる。この次に位置するものに,近松門左衛門作,竹本筑後掾初演の《天神記》(1713年2月)があり,大当りをした。翌年2月には直ちに歌舞伎に移され,大坂嵐・荻野座で,浄瑠璃どおりの上演をしている。この《天神記》を少し改めた江戸版もあるので,江戸でも上演されたのであろう。また,宝暦年中(1751-64)《天神記恵松》と外題を替えた〈天神記〉も刊行されている。1736年(元文1)2月には,上総少掾受領祝に《天神記冥加の松》を語ったとの記録があるが内容は明らかでない。《天神記》をさらにふくらませたものに,浄瑠璃曲中1,2位を競う傑作で天神記物の決定版ともいえる《菅原伝授手習鑑》(1746年8月)がある。この作もすぐ歌舞伎に移された。以来,浄瑠璃,歌舞伎でしばしば上演され,上演頻度数でも3位以内にランクされている。この後の作品としては,浄瑠璃で《振袖天神記》(1769年正月),歌舞伎で《天満宮菜種御供(なたねのごくう)》(通称《時平の七笑(しへいのななわらい)》,1777年4月大坂)が出たくらいである。《時平の七笑》はもともと歌舞伎に書き下ろされたものであり,《菅原伝授手習鑑》の書替えとはいえ,原作比肩する傑作。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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