精選版 日本国語大辞典 「奪・褫」の意味・読み・例文・類語
うば・う うばふ【奪・褫】
〘他ワ五(ハ四)〙 (平安時代には「むばふ」とも表記された)
① 他人の所有物を無理やりに取り上げる。奪いとる。
(イ) 力ずくで人の物を自分の物にする。強奪する。よこどりする。
※書紀(720)神代上(水戸本訓)「謂(をも)ふに当に国を奪(ウハハ)むとする志有りてか」
※宇津保(970‐999頃)藤原の君「ばくち、京わらはべ、くるまむばひたり」
(ロ) 権力によって、地位、仕事、財産などを取り上げる。剥奪(はくだつ)する。没収する。
※守護国界主陀羅尼経平安中期点(1000頃)一〇「大王の宣位を簒(ムハヒ)奪(ムハ)はんとするなり」
(ニ) ひそかに自分の物にする。盗みとる。かすめとる。
(ホ) そうでないものが本来のもののように見えたり、本来のものを乱したりする。
※万葉(8C後)五・八五〇「雪の色を有婆比(ウバヒ)て咲ける梅の花今盛りなり見む人もがも」
(ヘ) (男女関係で) 肉体をおかす。
※上海(1928‐31)〈横光利一〉五「今迄自分を奪ったものは甲谷だとばかり思ってゐたのに」
② (「志を奪う」などの形で) 人の気持などを無理に変えさせる。
※書紀(720)仁徳即位前「我は兄王(いろねのきみ)の志を奪(うばふ)可からざることを知れり」
③ 取ってなくす。取り去る。
※徒然草(1331頃)一二八「彼に苦しみをあたへ、命をうばはん事、いかでかいたましからざらん」
④ 心や目を引き付ける。ふつうは、受身の助動詞を伴って用いられる。
※徒然草(1331頃)七五「世にしたがへば、心、外の塵にうばはれてまどひやすく」
[補注]「文明本節用集」に「奪 バウ ウバウ」と併記されているように、中古から近世にかけて「ばふ」という語形もあった。
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