日本大百科全書(ニッポニカ) 「実質賃金・名目賃金」の意味・わかりやすい解説
実質賃金・名目賃金
じっしつちんぎんめいもくちんぎん
real wage, nominal wage
賃金は、通例、貨幣で支払われる。支払われた貨幣額で示された賃金が名目賃金である。名目賃金は、賃金水準の基本的な表示方法であるが、その貨幣額で購買しうる生活手段量は、物価水準によって左右されるので、実質的な購買力は示されない。その意味であくまでも名目的な賃金水準でしかない。
名目賃金の実質的な購買力を示すために用いられる賃金が実質賃金である。実質賃金の水準は、名目賃金指数を消費者物価指数で除した実質賃金指数として表される。実質賃金は、名目賃金に比べて、賃金のより実際的な水準を示す方法である。とはいえ、消費者物価指数について、調査品目の選定やウェイトのかけ方などでの問題点が指摘されており、実質賃金がそのまま客観的な購買力水準を示すものであるとはかならずしもいえない。こうした制約を考慮する必要はあるが、実質賃金の動向は、労働者世帯の生活水準の動向をみる有力な一指標である。とりわけ、現代社会のもとでは、実質賃金の正確な測定が、経済政策の遂行にとっても、また労働組合の賃金闘争にとっても不可欠となっている。
[横山寿一]
『社会政策叢書編集委員会編『社会政策叢書第21集 今日の賃金問題』(1997・啓文社)』