日本大百科全書(ニッポニカ) 「将来之日本」の意味・わかりやすい解説
将来之日本
しょうらいのにっぽん
評論家徳富蘇峰(そほう)の著書。1886年(明治19)10月経済新報社より刊行、商業出版としての処女作である。本書の引き起こした反響は大きく、当時24歳の蘇峰は郷里熊本の大江義塾を閉鎖して上京、東都の論壇を舞台に言論活動を展開する決意を固め、翌年2月『国民之友』を創刊した。彼は本書において、腕力世界と平和世界、武備主義と生産主義、貴族社会と平民社会という一連の対極概念による思考パターンにより、それぞれの後者が前者を克服していくのが世界の大勢であるという認識にたち、日本の将来が「如何(いか)になる可(べ)き乎(か)」を明らかにすることを通じて、将来の日本を「如何になす可き乎」を論じようとした。そして、国際関係の動勢、社会の歴史的発展の大勢、日本の歴史的展開の動向の分析を手掛りとして、日本は平和的で平民主義的な生産国家を目ざすべきであると断じている。
[田代和久]
『吉本隆明編『現代日本思想史大系4 日本のナショナリズム』(1964・筑摩書房)』▽『植手通有編『明治文学全集34 徳富蘇峰集』(1974・筑摩書房)』