京都の地名。平安末期から鎌倉初期にかけて,かつての平安京右京は土地湿潤のためにすたれ,人々は左京へ移住した(《方丈記》)。このため京域は南北に細長い区画となり,条坊の範囲を越え公家邸も北へと延びはじめた。こういった経過から,旧来の東・西(左・右)から上・下という新たな地域概念が発生するが,1275年(建治1)には記録上に〈上・下町中〉の記述もあらわれる(《思円上人一期形像記》)。次いで14世紀末から15世紀にかけて,火災記事などに〈上辺・下辺〉〈上京・下京〉などの用例が数多くみえるようになり(《山科家礼記》ほか),このころには上京・下京が独立した集落を形成していたことがうかがえる(当時の両京の境は二条通付近)。その後の上京は,1331年(元弘1)以後,土御門(つちみかど)内裏が定着すると,室町期にはこの内裏と,その北方にある室町幕府の〈花御所〉が上京に並び建ち,かつそれらの周囲に公家や三管領,四職の武家の邸宅がとりまき政庁街の観を呈した。また上京西部には,平安期の織部司の系譜をひく大舎人の織手が,鎌倉期より高級織物を製し,一方北野社には麴(こうじ)の独占販売をなす商人が幕府の保護をうけ活動していた。
応仁・文明の乱により,京中とくに上京区域は東西両軍の武家の邸宅があった関係上焼亡がはなはだしく,住民も堺,奈良,大津などに四散した。しかし乱後は大舎人の織手に代表されるように(西陣の起源),いち早い住民の還住,復興がみられ,1500年(明応9)の火災では上京の焼失家屋1万数千軒と記され(《厳助往年記》),その復興ぶりがうかがえる。上京はその後天文法華一揆や,周辺村からの土一揆襲撃を経験。再度兵火にみまわれるが,そのなかで法華衆を中心とする町衆の自治組織も芽生え,1549年(天文18)初見の立売組をはじめとし(《上下京町々古書明細記》),一条組,中筋組,小川組,川ヨリ西組の各組町が登場する。68年(永禄11),織田信長入京後の上京は,下京の2倍の規模で富裕な人が住み高級絹織物の産地であったと記録にある(ルイス・フロイス《耶蘇会士日本通信》)。73年(天正1)信長への反抗的態度から焼打ちにあうが,直後に地子免許などの特典を与えられ復興を遂げた。86年豊臣秀吉は聚楽第(じゆらくだい)を上京に造営。それ以後周辺の町屋は強制移転が命じられ,跡地に諸大名,武家屋敷が造成された。それとともに,寺町,寺之内の寺院街も形成されている。
江戸時代に入り,1603年(慶長8)二条城が竣工し,その北側に所司代屋敷が造営されたことで,当代においても上京は政庁街の性格を保持している。その後も上京は,宝永,享保,天明,元治と数度の大火を経験。1708年(宝永5)の大火では烏丸通以東,丸太町通以北の町々が移転させられ跡地に公家町が造成された。30年(享保15)の大火は〈西陣焼〉と呼ばれ,西陣108町が焼失している(《月堂見聞集》)。なお江戸後期には町組も12組となり,町数も16世紀中ごろの120町から18世紀中ごろには850余町と7倍以上の増加・発展をみた。明治維新を経て1869年(明治2)の町組改正では上京は上大組と称され,三条通を境に33番組(前年の改正では45番組)に編成された。その後78年には二条以北を上京区とし,のち増区をへて1955年,現在の上京区域が確立した。
→下京
執筆者:樋爪 修
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…低湿な右京(西部)はやがてさびれ,高燥な東部,北部へと発展し,平安京の東縁であった鴨川の東へも早くから市街が広がった。 市制施行時には面積は約30km2で,上京,下京の2区のみであったが(現在の両区とは範囲が異なる),その後市域が拡大し,1929年には上京,下京,中京,左京,東山の5区となった。31年には伏見市などを編入して伏見区,右京区が設けられ,第2次世界大戦後にはさらに北方の丹波高地や南西方の町村を合わせ,59年約610km2の現市域が成立した。…
…他方,市街地の北と南の区別が二条通(大内裏南辺の東西路)を境にしてなされ,上辺(かみわたり),下辺(しもわたり)の称も生まれた。のちの上京,下京である。
[京の住民]
記録の上で平安京にのみ見られるものに諸司厨町(しよしくりやまち)がある。…
※「上京」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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