工作物責任 (こうさくぶつせきにん)
建物の崩壊など工作物に起因する事故につき,工作物の設置または保存に瑕疵(かし)がある場合に成立する特別の賠償責任(民法717条)。ここに瑕疵とは,工作物が通常備えるべき安全な性状や設備に欠ける場合を指し,過失の存在を要しない。この責任を第1次的に負担するのは工作物の賃借人など占有者であるが,占有者は無過失を立証すれば免責され,この場合には,所有者が責任を負う。つまり,瑕疵がある以上,所有者は自己に過失がなくても責任を負わねばならず,その責任は一種の無過失責任である。これは危険責任,すなわち危険物を占有・所有する者は危険物から生じた事故について責任を負うのが公平である,との考えに立っている。危険責任の法理は被害者に有利であり,その活用が図られている。しかし,工作物から生ずる事故にしか適用できず,これが危険責任の制約である。工作物は土地に接着した物であることが必要であり,トンネル,造成地や崖の擁壁,ガスタンクがその例であり,最近では,プロパンガスの容器も工作物とされている。
執筆者:國井 和郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
世界大百科事典(旧版)内の工作物責任の言及
【瑕疵】より
…売買以外の有償契約には売買の規定が準用されるが(民法559条),[請負]契約には特則が定められ,仕事の目的物に瑕疵があるときは,注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求することができ,あわせて損害賠償を請求することもできる(634条以下)。(3)さらに,土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは,その工作物の占有者・所有者が被害者に対して損害賠償義務を負う([工作物責任])。占有者は第1次的責任者とされるが,損害の発生を防止するに必要な注意をしたときは免責される。…
【企業責任】より
…これに関連して,原子力事故や鉱害,公害などについては,企業の無過失責任を定める特別法が存在するが,特定の分野に限定されており,十分とはいえない。そこで,民法上の特別な責任の活用が図られ,[使用者責任]と[工作物責任]が責任追及の手段とされている。前者は加害行為をした被用者の過失による事故については有益であるが,加害被用者を特定し,その過失を立証する必要があり,この点に問題が残る。…
【不法行為】より
…
[特殊な不法行為]
日本の民法では,これまで説明してきた709条の一般的不法行為のほかに,いくつかの特殊な不法行為の規定が定められている。責任無能力者の監督者の責任(714条),[使用者責任](715条),[工作物責任](717条),動物占有者責任(718条),および[共同不法行為](719条)がそれである。これらの諸規定による不法行為責任は,支配的見解によれば,土地の工作物の所有者の責任(717条1項但書)を唯一の例外として,いずれも過失責任の原則に立脚したものと解されている。…
【無過失責任】より
…その後,無過失責任制度があらわれるのは第2次大戦後のことであり,現在では水洗炭被害に対する賠償制度(水洗炭業に関する法律16条),原子力被害に対する賠償制度(〈原子力損害の賠償に関する法律〉3条),大気汚染による健康被害に対する賠償制度(大気汚染防止法25条以下),水質汚濁による健康被害に対する賠償制度(水質汚濁防止法19条以下),労働災害に対する賠償制度(労働基準法75条以下),独禁法上の被害賠償制度(独占禁止法25条1項),油濁被害に対する賠償制度(油濁損害賠償保障法3条)などがみられる。 また,過失責任と無過失責任の中間的な,いわゆる中間的責任として,民法上の土地の[工作物責任]や竹木についての責任(717条),国家賠償法上の公の営造物責任(2条),自動車損害賠償保障法上の運行供用者責任(3条)などもみられる。
[特徴]
無過失責任の特徴は,まず責任の成立要件という観点において故意・過失の有無がなんら要件にならないということであるが,しかし,それのみにとどまるものではない。…
※「工作物責任」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」