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無過失責任 むかしつせきにん

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

無過失責任
むかしつせきにん

損害の発生について加害者の過失有無にかかわらず損害賠償責任を負わせること。過失責任は近代法の大原則であるが,大企業が巨額の利益を収めながら危険な事業を遂行する場合,過失の有無にかかわらずこれに賠償責任を負わせるのが公平の原則にかなうという観点 (→企業責任 ) から,無過失責任の思想が発展した。日本法で無過失責任が認められるのは,鉱害賠償,大気汚染,水質汚濁による健康被害の賠償責任,原子力損害の賠償責任などで,このほか自動車事故による人身損害の賠償も事実上,無過失責任に近いとされている。なお国際法上の無過失責任は国際責任に関して問題となる。

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百科事典マイペディアの解説

無過失責任【むかしつせきにん】

損害の発生について故意過失がなくてもその賠償責任を負うこと。不法行為責任は過失責任主義を原則とするが,資本主義の発達に伴う大企業の出現がもたらした災害について,公平の原則から主張される。
→関連項目国際責任サレイユ損害賠償

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世界大百科事典 第2版の解説

むかしつせきにん【無過失責任】

日本の民法は,不法行為責任の成立について,〈故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス〉と規定している(709条)。そこで,民法の不法行為責任成立要件は,原則として,故意過失責任能力違法性,および因果関係ということになるわけであるが,このように故意・過失を不法行為責任の成立要件とするものを過失責任と呼び(過失責任主義),これに対して,故意・過失を成立要件としないものを無過失責任と呼んでいる。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

無過失責任
むかしつせきにん

民法上

ある者が他人に損害を生ぜしめた場合に、その者に過失がなくても民事責任(とくに不法行為責任)を負う場合に、これを無過失責任といい、過失責任に対置される。近代法は、資本主義的自由主義のたてまえから過失責任主義を原則とする。日本の民法第709条はその例であり、無過失責任の規定は例外的である(民法717条の所有者の責任など)。しかし、近代産業の発展は、多くの危険(高速度交通機関、電気事業、石油コンビナートなど)と、そのような危険をまき散らしながら膨大な利潤を得る企業を生み出し、過失責任主義の貫徹を不適当なものとした。なぜなら、危険をつくりだした者は、それから生じた損害について賠償責任を負うべきであるし(危険責任主義)、利益をあげる過程で他人に損害を与えたならば、その利益のなかから賠償させる(報償責任主義)のが公平にかなうからである。そこで、種々の特別法で無過失責任が取り入れられるに至っている。鉱業法(109条)、「原子力損害の賠償に関する法律」(3条)などはその例であり、公害についても無過失責任が導入された。[淡路剛久]
鉱公害無過失責任
鉱山経営から生じる鉱害の歴史は古く、1939年(昭和14)旧鉱業法に無過失責任の規定が取り入れられ、第二次世界大戦後の50年(昭和25)に制定された現行鉱業法に受け継がれた。同法によると、鉱物の掘採のための土地の掘削、坑水や廃水の放流、捨石(すていし)や鉱滓(こうさい)の堆積(たいせき)、または鉱煙の排出によって他人に損害を与えたときは、その鉱区の鉱業権者(租鉱区が設定されているときには租鉱権者)が過失がなくても損害賠償責任を負わなければならず、損害発生のときすでに鉱業権が消滅しているときには、鉱業権消滅のときの鉱業権者が責任を負う(109条1項)。損害が発生したあとに鉱業権が譲渡された(または租鉱権が設定された)場合には、損害が発生したときの鉱業権者およびその後の鉱業権者(または租鉱権者)が連帯して損害賠償責任を負う(同条3項)。これらの規定の適用例として、イタイイタイ病訴訟判決、土呂久(とろく)ヒ素公害訴訟判決などがある。
 無過失責任は、1972年、大気汚染防止法および水質汚濁防止法の改正により、大気汚染公害および水質汚濁公害にも適用されることになった。すなわち、大気汚染防止法によると、工場または事業場における事業活動に伴う健康被害物質により人の生命または身体を害したときには、その事業者が無過失でも損害を賠償しなければならず(25条1項)、水質汚濁防止法では、工場または事業場における事業活動に伴う有害物質の汚水または廃液に含まれた状態での排出により人の生命・身体を害したときには、その事業者が無過失でも損害賠償責任を負うべきものとされている(19条1項)。なお、損害の発生に関して、天災その他の不可抗力が競合したときには、裁判所は損害賠償の責任および額を定めるにつき、これを斟酌(しんしゃく)できるものとされている(大気汚染防止法25条の3、水質汚濁防止法20条の2)。[淡路剛久]
原子力無過失損害賠償責任
核燃料の利用(原子炉の運転等)により損害が生じたときに備えて、1961年、原子力事業者の無過失責任を定める「原子力損害の賠償に関する法律」が制定された。同法によると、原子炉の運転、加工、再処理および核燃料物質の使用により原子力損害を生じたときには、その原子炉の運転等にかかる原子力事業者が、過失の有無を問わずに損害賠償責任を負わなければならない(3条1項本文)。ただし、その損害が異常に巨大な天災地変(たとえば異常に巨大な地震)または社会的動乱(たとえば戦争や内乱)によって生じたものであるときには、無過失責任は適用されない(同条但書)。[淡路剛久]
独占禁止法違反無過失損害賠償責任
独占禁止法は、公正かつ自由な競争を保障するため、私的独占、不当な取引制限および不公正な取引方法を禁止しているが、これらの禁止に違反して事業者が他の事業者や一般消費者に損害を与えた場合には、無過失でも損害賠償責任を負わなければならない(25条1項・2項)。なお、この損害賠償請求権は、公正取引委員会の審決が確定したあとでなければ、裁判上主張できないものとされている(26条)。[淡路剛久]
無過失責任に近い責任
損害賠償責任を定める法律の規定のなかには、過失の挙証責任を転換しているものがある(たとえば、民法714条・715条・717条・718条、自動車損害賠償保障法〈自賠法〉3条など)が、その場合に、免責の立証(過失がなかったことの立証など)がなかなか認められないと、事実上無過失責任に近くなる。[淡路剛久]

国際法上

無過失責任(absolute liability)は通常の国際責任の場合とは異なり、国際違法行為と故意・過失がなくても、国際法益の侵害の救済または危険の防止のために追及される国際法上の責任をいう。とくに最近の科学・技術の実用化に伴い高度の危険性を内蔵する特定の事業分野の事故に基づく第三者損害について、特別の条約により無過失・厳格責任を定め免責事由を限定するなど、危険責任主義を採用する。そのなかには、航空機落下や海洋汚染による損害など、事業の運用管理者の限定賠償責任とそれに見合う保険の設定義務を定め、管轄の国内裁判所を指定するもの(民事責任)、原子力事故損害など、民事責任のうち運用管理者の負担能力を超える分について、事業を許可した国の分担責任を定めるもの(混合責任)、宇宙物体の落下損害など、この活動を許可・監督する国に無過失・無限の賠償責任を集中するもの(国の専属責任)がある。しかし、無過失責任の適用が認められる分野は特定されており、国連国際法委員会も、このような「国際法上禁止されない行為により生じた侵害についての国際責任」を一般原則化する作業を進めているが、まだ合意に達していない。[山本草二]
『石本雅男著『無過失損害賠償責任論』2冊(1983・法律文化社) ▽岡松参太郎著『無過失損害賠償責任論』(1953・有斐閣) ▽山本草二著『国際法における危険責任主義』(1982・東京大学出版会)』

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