幕末太陽伝(読み)ばくまつたいようでん

改訂新版 世界大百科事典 「幕末太陽伝」の意味・わかりやすい解説

幕末太陽伝 (ばくまつたいようでん)

1957年製作の日活映画。1944年に松竹でデビューしてから20年間に風俗喜劇メロドラマなど各社で合計50本の作品をつくり,戯作者的な資質才気によって〈鬼才〉ともよばれ,45歳の若さで急死した川島雄三監督の代表作であり,日本では〈異色〉の喜劇映画の名作とされる。

 日本の〈現代〉を描いていけば究極的に喜劇になる,と考えていた川島雄三が,江戸古典落語の《居残り佐平次》その他の〈廓(くるわ)もの〉を素材に,時代を文久2年(1862)に設定して,勤皇と佐幕に分かれて揺れ動く武士の世界を町人の世界にからませた物語を,〈グランド・ホテル形式〉で構成,江戸の町人が武士階級に対する理想像としてつくりあげた架空の人物である佐平次(フランキー堺)と,歴史上の勤皇の志士で当時の〈太陽族〉でもあった高杉晋作石原裕次郎)の,動乱の時代における生きざまに託して,〈現代〉を描いた傑作である。脚本は,チーフ助監督でもあった今村昌平との共作。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の幕末太陽伝の言及

【川島雄三】より

…青森県下北郡生れ。小児麻痺という肉体的ハンディキャップや伝説化した暴飲と奇行癖によって,代表作《幕末太陽伝》(1957)の主人公,居残り左平次にその自伝的イメージを見る人も多い。1963年,45歳で早世したが,日活時代の助監督今村昌平は,〈芸術もあった,戦争もあった,泥酔も喧嘩も恋愛も嫉妬も,ケチも痛快も憎悪も,あらゆるものが充実し,煮つまり,華やかに在った〉(《サヨナラだけが人生だ――映画監督川島雄三の一生》)と書いている。…

【喜劇映画】より

…そうした中で,植木等主演の《ニッポン無責任時代》(1962)は,サラリーマン喜劇に属しながら,陽気なピカレスクの輝きを見せ,異彩を放つが,シリーズ化された後続の作品は平凡なものとなった。 喜劇を得意とする作家としては,〈軽薄才子〉と評された初期の市川崑が,《足にさわった女》(1952),《青春銭形平次》《愛人》(ともに1953)などで発揮したモダニズムとダンディズム,また,一見それと似た軽さを示しつつも,戦後的なニヒリズムを根本とした川島雄三の《幕末太陽伝》(1957),《貸間あり》(1959),《しとやかな獣》(1962)などの,世をすねたユーモアも忘れがたい。しかし,こうしたドライな,時として毒のある笑いは,大衆受けはしなかった。…

※「幕末太陽伝」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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