メロドラマ(読み)めろどらま(英語表記)melodrama

翻訳|melodrama

日本大百科全書(ニッポニカ) 「メロドラマ」の意味・わかりやすい解説

メロドラマ
めろどらま
melodrama

ギリシア語のメロスmelos(歌)とドラマdrama(劇)の合成語で、演劇の一ジャンルをさすが、時代や地域によって多様に使われてきた。18世紀後半からジャンルとして力をもち始めたが、当初ドイツではオペラのなかで音楽の伴奏がつく台詞(せりふ)(歌わない)の部分を、フランスでは登場人物が沈黙したときにその感情を音楽で表現する演劇をさしていた。しかしメロドラマが隆盛をみるようになったのは、ドイツ出身の劇作家アウグスト・コッツェブーがウィーンペテルブルグ戯曲を次々に発表し始めてからである。彼の代表作『人間嫌いと後悔』(1789)ほかがイギリスやアメリカでも翻訳・上演され、イギリス、アメリカにおけるメロドラマ・ブームに火がつき、フランスにも劇作家ギルベール・ド・ピクセクールが現れると、彼の『ケリナ、または謎(なぞ)の子』(1800)ほかがやはりイギリス、アメリカで翻案され、メロドラマの流行に油を注いだ。

 メロドラマは誇張されたドラマであり、ヒーローとヒロイン前途に迫害する敵(かたき)役もしくは越えがたい障害が現れるというパターンが多く、善玉悪玉とははっきり分かれている。またドラマ全体としては道徳的、感傷的、楽観的で、最後はハッピー・エンドになる。さらに、劇的効果を強めるための音楽の使用、スペクタクル性を高めるための大仕掛けの舞台装置など、映画が誕生するまでもっとも大衆的な娯楽媒体だった。事実、冒険活劇、犯罪実話、家庭悲劇、あるいは汽船遭難、鉄道事故、大地震など19世紀メロドラマの題材は、テーマ音楽とともに映画のなかへと受け継がれていったのである。サイレント時代の映画ではグリフィスの長編映画にメロドラマ性が濃厚であり、トーキー時代では『風と共に去りぬ』(1939)、『哀愁』(1940)、日本映画では『愛染かつら』(1938~39)、『君の名は』(1953~54)などが有名。大衆の心をつかんだメロドラマも、その御都合主義、扇情性、通俗性感傷性のため、現在では蔑称(べっしょう)として使われる場合が多くなってしまった。

[岩本憲児]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「メロドラマ」の意味・わかりやすい解説

メロドラマ
melodrama

18世紀の後半フランスに生れ,19世紀に欧米で流行した演劇の一形態。初め,音楽にのせてせりふを用いたためこの名がある。 R.ピクセレクール,A.コッツェブらがその代表的作者で,波乱万丈の恋愛物語を題材とし,善玉と悪玉が闘い,最後には善玉が勝ってめでたく幕というのが一般的なパターンであった。 19世紀には,音楽を用いなくても,この種の通俗劇をさすようになった。アメリカで大ヒットした『アンクル・トムの小屋』 (1852) などもメロドラマの構造を用いており,今日まで商業演劇の多くに受継がれている。

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