日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワイルダー」の意味・わかりやすい解説
ワイルダー(Billy Wilder)
わいるだー
Billy Wilder
(1906―2002)
アメリカの映画監督。ポーランド(当時オーストリア領)のスーハに生まれる。新聞記者を経てドイツ映画のシナリオライターとなり、1933年ハリウッドに渡る。1938年からチャールズ・ブラケットと脚本チームを組み、コメディに佳作を連発、1942年に監督となってからは野心的な題材に挑戦、『深夜の告白』(1944)、『失われた週末』(1945)、『サンセット大通り』(1950)などで第一級監督の地位を確立する。1950年代以降は戯作(げさく)者的な作風がより明確となり、独特の滑稽(こっけい)と皮肉を込めて現代のアメリカを揶揄(やゆ)した。『昼下りの情事』(1957)、『お熱いのがお好き』(1959)、『アパートの鍵(かぎ)貸します』(1960)、『フロント・ページ』(1974)などがある。アカデミー監督賞を二度、脚本賞を三度受賞。
[宮本高晴]
資料 監督作品一覧
悪い種子 Mauvaise Graine(1933)
少佐と少女 The Major and the Minor(1942)
熱砂の秘密 Five Graves to Cairo(1943)
深夜の告白 Double Indemnity(1944)
失われた週末 The Lost Weekend(1945)
皇帝円舞曲 The Emperor Waltz(1948)
異国の出来事 A Foreign Affair(1948)
サンセット大通り Sunset Blvd.(1950)
地獄の英雄 Ace in the Hole(1951)
第十七捕虜収容所 Stalag 17(1953)
麗しのサブリナ Sabrina(1954)
七年目の浮気 The Seven Year Itch(1955)
翼よ!あれが巴里の灯だ The Spirit of St. Louis(1957)
昼下りの情事 Love in the Afternoon(1957)
情婦 Witness for the Prosecution(1957)
お熱いのがお好き Some Like It Hot(1959)
アパートの鍵貸します The Apartment(1960)
ワン、ツー、スリー ラブハント作戦 One, Two, Three(1961)
あなただけ今晩は Irma la Douce(1963)
ねえ!キスしてよ Kiss Me, Stupid(1964)
恋人よ帰れ!わが胸に The Fortune Cookie(1966)
シャーロック・ホームズの冒険 The Private Life of Sherlock Holmes(1970)
お熱い夜をあなたに Avanti!(1972)
フロント・ページ The Front Page(1974)
悲愁 Fedora(1978)
新・おかしな二人 バディ・バディ Buddy Buddy(1981)
『モーリス・ゾロトウ著、河原畑寧訳『ビリー・ワイルダー・イン・ハリウッド』(1992・日本テレビ放送網)』▽『ヘルムート・カラゼク著、瀬川裕司訳『ビリー・ワイルダー自作自伝』(1996・文芸春秋)』▽『キャメロン・クロウ著、宮本高晴訳『ワイルダーならどうする?――ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話』(2001・キネマ旬報社)』
ワイルダー(Thornton Wilder)
わいるだー
Thornton Wilder
(1897―1975)
アメリカの小説家、劇作家。ウィスコンシン州に生まれる。外交官の父に従い香港(ホンコン)、上海(シャンハイ)での生活を経験。高校時代はカリフォルニアで送り、のちエール大学を卒業。高校教師を経てシカゴ大学などで古典文学を教えながら創作に励む。深い教養に裏打ちされ、時代を超越した温厚で肯定的な人間観を、斬新(ざんしん)かつ革新的な形式で表現することに特徴があり、1930年代、その伝統的宗教態度を一部批評家から批判されたこともあったが、アメリカのみならずヨーロッパでも文学者として高い評価を獲得した。小説には、事故死した人物たちの過去を通して神の摂理を究明する『サン・ルイス・レイの橋』(1927)、書簡や記録を組み合わせるという形式でシーザーの晩年を描いた『三月十五日』(1948)、無実の死刑囚をめぐる人生模様を描く『第八の日に』(1967)など。戯曲では写実的形式に敢然と反旗を翻し、舞台の時間と空間の枠を取り払って、宇宙的視点から人間の諸問題と取り組み、一幕劇集『長いクリスマスの正餐(せいさん)』(1931)や、恋愛・結婚・死を通して日常生活の意味を説く『わが町』(1938)、氷河・洪水・戦争という大災害を生き延びてきた人類の意義を考える『危機を逃れて』(1942。『ミスター人類』の題で邦演)、のちにヒットミュージカル『ハロー・ドーリー』(1964)に翻案された喜劇『結婚斡旋(あっせん)人』(1954)があり、いずれも傑作とされている。
[一ノ瀬和夫]
『時岡茂秀訳『ソーントン・ワイルダー一幕劇集』(1978・劇書房)』▽『宇野利泰訳『第八の日に』(1977・早川書房)』▽『鳴海四郎訳『わが町』(『現代世界演劇13』所収・1971・白水社)』
ワイルダー(Laura Ingalls Wilder)
わいるだー
Laura Ingalls Wilder
(1867―1957)
アメリカの女流児童文学作家。ウィスコンシン州奥地の丸太小屋で開拓農民の子として生まれる。教師を経て、結婚後はミズーリで農業を営んだ。ミネソタ、アイオワ、ミズーリ、カンザスなどに移り住み、おもにこの移住の経験がもとになって作品が生まれた。65歳で著述を始め、『大きな森の小さな家』(1932)、『大草原の小さな家』(1935)、『プラム川の岸辺にて』(1937)、『長い冬』(1940)などを著す。いずれも、未開の大自然と、それに立ち向かう開拓農民の生活の哀歓を、着実な手法で、実感を込めて描き、アメリカ開拓時代のエネルギーが感じ取れる。なお、『大草原の小さな家』はテレビのシリーズ番組となり、日本でも放映されて人気をよんだ。
[八木田宜子]
『恩地三保子訳『大きな森の小さな家』(1972・福音館書店)』