引込(読み)ひっこむ

精選版 日本国語大辞典 「引込」の意味・読み・例文・類語

ひっ‐こ・む【引込】

[1] 〘自マ五(四)〙 (「ひきこむ(引込)」の変化した語)
① 内にはいって外に出ない状態になる。また、勤めを休む。江戸時代の遊里では、遊女が見世に出て客を取ろうとしないことをいった。
史記抄(1477)三「民も夏は出て冬はひっこうでいるぞ」
浮世草子傾城禁短気(1711)四「太夫の小主水が、久しく引込(ヒッコミ)(つとめ)ざる子細を知ったか」
② 目立たない所に退く。閑居や引退をする。
※足利本人天眼目抄(1471‐73)下「東宮に深々とひっこふで御座有れどもはや芳名外国へ聞へたぞ」
③ 引っ込み禿になる。
※人情本・仮名文章娘節用(1831‐34)初「千年屋の抱への子で、此の頃まで引っ込んで居りましたのが」
④ しりごみする。ぐずぐずする。
⑤ 低く落ち込む。また、深くくぼむ。
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉二「眼はすこし凹(ヒッコミ)たる方にて」
後方へ退く。後ろに下がる。奥へはいる。
石山本願寺日記‐宇野主水日記・雑記・高野山参詣・天正八年(1580)九月「大塔あり〈略〉金堂の東に北へ少しひっこふてあり」
⑦ 売価が仕入れ値よりも低くなる。欠損になる。くいこむ。
滑稽本浮世風呂(1809‐13)四「本直が四貫宛も引(ヒッ)込まアナ」
[2] 〘他マ五(四)〙 (「ひきこむ(引込)」の変化した語)
① 引いて中に入れる。ひっぱりこむ。
雑兵物語(1683頃)下「箱根峠でそまのうっくさった匂ひを鼻の穴へひっこんで」
※まんだん読本(1932)日本のエヂソン〈井口静波〉「会社から線を引込(ヒッコ)んで電灯料を払って使ふのでなく、線も引かず、料金も払はず」
② 仲間に加える。
歌舞伎・四天王楓江戸粧(1804)五立「何ぞの時の替へ玉に、引(ヒッ)(コ)んで置くがいい」
③ 帽子、笠、頭巾などを深くかぶる。
※寛永版曾我物語(南北朝頃)五「深き蓑に編笠深くひっかうで」
[3] 〘他マ下二〙 ⇒ひっこめる(引込)

ひき‐こ・む【引込】

[1] 〘他マ五(四)〙
① 引いて内へ入れる。ひきいれる。
太平記(14C後)一四「大たて揚(あげ)の膸当(すねあて)脇楯(わいだて)の下へ引こうて」
② さそってなかまに入れる。また、ある状態に人をさそい入れる。
※西国立志編(1870‐71)〈中村正直訳〉一〇「始め我を誘(ミチビ)(〈注〉ヒキコム)く時に当りて毅然として、否と云」
③ 金銭などを引き出して使い込む。費消する。
浄瑠璃・五十年忌歌念仏(1707)中「嫁入道具の代銀を。遣らずにおのれが引込んで我が親騙(かた)って一札させ」
④ 笠、帽子、頭巾など目深にかぶる。
※曾我物語(南北朝頃)五「ふるき蓑に、編笠ふかくひきこみて」
⑤ 感冒を身に受ける。風邪をひく。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第一五「引こむは敗毒散でなをる物 されども入(いる)水風呂の滝」
[2] 〘自マ五(四)〙 =ひっこむ(引込)(一)
※三体詩素隠抄(1622)二「鄭谷は、僖宗の時の、黄巣が乱を、さけて、楊州の、かたに、ひきこみて、乱の治るを、待たと、みへたぞ」
[3] 〘他マ下二〙 ⇒ひきこめる(引込)

ひっ‐こみ【引込】

〘名〙
① 引いて中へ入れること。ひっぱりこむこと。引き込み。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)四「あの女に入れ上げて、漸漸内へ引込(ヒッコミ)の、昼も箪笥の環が鳴るといふ世界さ」
② 内にこもって外に出ないこと。また、武士の病気欠勤。
咄本・室の梅(1789)浪人「義士ども夜討の節は病気にて御引込(ヒッコミ)か」
③ その場や世間から退くこと。また、物事から身をひくこと。事をすませて関係のない身となること。引退すること。また、その人。
※俳諧・類船集(1676)仁「入道〈略〉牢人の引込(ヒッコミ)はいふに及ばず」
プールサイド小景(1954)〈庄野潤三〉「調子をはぐらかされて、引っ込みも進みもならなくなるに違いない」
④ 舞台から役者が退場すること。特に、能や歌舞伎で、役者が退場する際の芸。
※洒落本・遊僊窟烟之花(1802か)一「何かこはいろまがひの引っこみといふ事をいいながら出て行」
⑤ 損失。食い込み。
⑥ 刀の鞘の上覆い。〔日葡辞書(1603‐04)〕

ひっ‐こ・める【引込】

[1] 〘他マ下一〙 ひっこ・む 〘他マ下二〙 (「ひきこめる(引込)」の変化した語)
① 引いて中へ入れる。外に出さないようにする。また、一度出したものを、もとにもどす。
※史記抄(1477)一二「よい者はひっこめられて、わるいものは出てねりまわると云心ぞ」
② 取り消す。とりさげる。解消する。
※島へ(1962)〈島尾敏雄〉「自分のことばをひっこめたいと思った瞬間」
③ 後ろに下がらせる。後方に位置させる。
※藤棚(1912)〈森鴎外〉「遙かに道から引っ込めて立てた、大きい門がある」
[2] 〘自マ下一〙 つつましい態度をとる。小さくなる。
※アルス新語辞典(1930)〈桃井鶴夫〉「ああいふ偉人の前へ出ては僕なんか全くひっこめるよ」

ひき‐こみ【引込】

〘名〙
① 引っぱって中に入れること。
※しろうと農村見学(1954)〈桑原武夫〉「二十戸くらいしか電灯をつけていない。引き込みに現金がいるからである」
② ひそかに金銭などを引き出して使うこと。使いこむこと。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)二「此時京の手代六人、申合せて拾両廿両、乃至二貫匁三貫匁はづして、皆藤内が引込(ヒキコミ)にいひたて」
③ 退(ひ)くこと。隠退すること。また、その人。隠居。
※浮世草子・風流曲三味線(1706)二「城兵衛と申す町人の手代の引籠(ヒキコミ)
④ 麹(こうじ)の製造で、蒸米を麹室に運び入れること。

ひっこま‐・す【引込】

[1] 〘他サ下二〙 ⇒ひっこませる(引込)
[2] 〘他サ五(四)〙 ((一)が四段活用化したもの)
① 物を引いて中へ入れる。中へとりこむ。また、引っぱって後退させる。引っ込める。
※咄本・茶の子餠(1774)忌中「とむらひの用意は内しゃう、忌中札は表向、近所からくやみにもくる物だ。引こましたがよい」
② 提案などを取り下げさせる。
※明暗(1916)〈夏目漱石〉二六「後を引(ヒ)っ込(コ)ましてしまった」

ひき‐こ・める【引込】

〘他マ下一〙 ひきこ・む 〘他マ下二〙
① 引いて内へ入れる。外へ出さないで内におく。隠しておく。
※源氏(1001‐14頃)末摘花「ひとりひきこめ侍らむも、人の御心違ひ侍るべければ」
② 一度出したものを取り消す。
※琴のそら音(1905)〈夏目漱石〉「『ええ』を引き込める訳に行かなければ」

ひっこま‐・せる【引込】

〘他サ下一〙 ひっこま・す 〘他サ下二〙 (「せる」はもと使役の助動詞。引っこむようにさせるの意から) =ひっこます(引込)(二)

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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