デジタル大辞泉 「内乱」の意味・読み・例文・類語
ない‐らん【内乱】
2 一国内において、政府の転覆を目的とする反政府勢力と政府側とによって行われる武力闘争。
[補説]作品名別項。→内乱
[類語]内戦・革命・変革・維新・改新・改革・改変・改造・政変・事変・反乱・暴動・クーデター・世直し
翻訳|civil war
非合法的手段によって政権を奪取しようとする試みの一形態。内戦ともいう。複合民族国家で一民族が自治を要求して武力に訴える場合(分離主義の運動)や,特定の政治的信条の下に集結し,現に政権を握っている勢力に反抗する場合などさまざまな発現形態がある。近代史上の内戦の例としては,アメリカの南北戦争(1861-65)やフランスのパリ・コミューン(1871)がある。20世紀になるとロシア革命に続いてヨーロッパ各地で社会主義革命政権樹立の試みがなされ,ロシアはもとより,ドイツ,ハンガリーなどで反革命勢力との間で武力闘争が行われた。さらに1936年から2年半にわたり,スペイン人民戦線とフランコ将軍との間で内戦が戦われ,フランコ軍の勝利に終わった。また中国で1924年以降展開された国民党と共産党との間の内戦は紆余曲折(うよきよくせつ)を経ながら,49年12月大陸に共産党政権が樹立されるまで続いた。現代では第三世界で内乱が頻発している。たとえばアフリカではおもなものだけでも,ケニアのマウマウの反乱(1952-56),コンゴ動乱(1960-63),南ローデシア紛争(1965-79),ナイジェリア内戦(1967-70),アンゴラ内紛(1975-76),ザイール紛争(1977-78),エリトリア紛争(1979-80),チャド内戦(1960-80)があり,西サハラやナミビアでは1984年現在いまだに紛争が終結していない(ナミビアは1990年独立)。
これらの事例を分析すると,まず既存政権の弱体化が内戦のきっかけとなっている。政治的要求を掲げる勢力が,既存体制の合法的システムをとおして要求を実現することが不可能であり,武力に訴える以外に道がないと判断したときに,その政治勢力が内乱を計画することになる。まず反抗のための組織づくりが行われるが,その組織はアフリカの例にみられるようにしばしばゲリラ集団を形成する。次の段階で暴力の行使つまり武装蜂起を行い,既存政権と武力によって対決する。体制側では戒厳令などをしき,反乱勢力の活動を抑えようとするが,後者は昼夜を問わず,少しずつみずからの支配する領域を拡大しようとする。なお,今日のアフリカにおいてしばしば内乱が発生するのは,そこでは国家間の境界線が植民地時代に恣意(しい)的に引かれたままであり,国民国家としての一体性が乏しく,部族や宗教に基づく分裂が著しいなどの理由が考えられよう。
内乱は,しばしば革命の第一ステップの意味をもつことがある。その場合,革命軍が勝利しても,革命勢力の内部にすでにそれに対抗する集団が形成されることがある。追随者(フォロアー)の不満足,暴力行使の日常化などがその原因である。また体制側が反乱勢力の鎮圧に成功しても,再び強固な政治秩序を形成するのは容易ではない。内乱が政治体制の弱体化による以上,その強化がなされない限り,政治的不安定は続かざるをえない。
執筆者:舛添 要一
内乱は内戦,非国際武力紛争とも呼ばれ,本来その国の国内問題であり,国内法レベルでは,政府が反徒を反逆者として鎮圧し刑法に従って処罰する権利をもっている。他方,国際法は,一定の程度まで内乱には関知しない。しかし,反乱団体が国家領域の実質的部分を占拠・支配し,政府または第三国から交戦団体としての承認を受ければ,反乱団体は一定の範囲で国際法主体となり,双方の戦闘には国際法規が適用される。しかし現実には,合法政府側がかかる承認を行う例はほとんどない。そのため,1949年ジュネーブ諸条約(赤十字条約)の共通3条は,非国際武力紛争の場合に,交戦団体承認の有無には言及せず,各紛争当事者が適用すべき最小限の人道的規定を列挙した。すなわち,敵対行為に直接参加しない者は,すべての場合に差別なく人道的に待遇されなければならず,なかでも,(1)生命,身体に対する暴行,とくにあらゆる種類の殺人,傷害,虐待および拷問,(2)人質,(3)個人の尊厳に対する侵害,とくに侮辱的で体面を汚す待遇,(4)正規の裁判所によるすべての裁判上の保障を与えた裁判によらない判決の言渡しおよび刑の執行は禁止される。また,傷者,病者は収容して看護しなければならない。さらに,赤十字国際委員会のような公平な人道的機関は,その役務を紛争当事者に提供することができる。なお,共通3条の適用は,紛争当事者の法的地位に影響を与えない。
ジュネーブ諸条約に対する1977年第2追加議定書は非国際紛争に適用されるもので,28ヵ条から成る。この議定書は,内容的には,共通3条の人道的保護規定を拡大させたものであるが,それが適用されうるための反乱団体の条件として,責任ある指揮の下に継続的な軍事行動を行い,議定書を適用しうる支配をその領域の一部に対して行っていることをあげた。まして,国内的緊張・騒擾(そうじよう)の状態には,この議定書は適用されない。
執筆者:藤田 久一
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…中国,隋・唐以後の律で,国家,社会の秩序を乱す罪としてとくに重く罰せられた〈謀反〉〈謀大逆〉〈謀叛〉〈悪逆〉〈不道〉〈大不敬〉〈不孝〉〈不睦〉〈不義〉〈内乱〉の総称。漢律にもすでに〈不道〉〈不敬〉といった名目があり,北斉律にいたって重罪十条という規定が設けられていた。…
…政府の承認は,革命等により政府の変更が生じた場合に新政府に当該国家を代表する地位を認める行為である。交戦団体の承認は,内乱等の場合,一部の地域を支配している団体に一定の範囲で国際法上の権利義務の主体となることを認める行為である。承認は伝統的な国際法上の概念であるが,最近政府承認については,革命の過程で非人道的な行為を行ったような政府を承認することが,本来の承認の意味を離れて,新政府の過去の非人道的行為を是認するとの意味あいで受けとられることになるおそれがあることなどから,伝統的な政府承認の制度をとどめ,新政府との実際上の接触の問題として処理しようとする国が増える傾向がみられる。…
…非計画的な,組織をもたない自然発生的な集団的暴力行使で,初期的段階の内乱の一形態ともなる。暴動は,支配される側の大衆が,さまざまな不満を正規の政治システムを通じて解消できないとき,事前の計画も明確なリーダーシップもほとんどないまま,暴発的に行う暴力の行使である。…
※「内乱」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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