日本大百科全書(ニッポニカ) 「意志と表象としての世界」の意味・わかりやすい解説
意志と表象としての世界
いしとひょうしょうとしてのせかい
Die Welt als Wille und Vorstellung
ドイツの厭世(えんせい)思想家ショーペンハウアーの主著。1819年30歳のときに完成された著作であるが、25年後にはその続編を出すに至るほど、全力を傾けた著作であった。しかし、出版当初の評判はあまり高いものではなかった。正編は4部に分かれ、第1部と第3部が表象としての世界、第2部と第4部が意志としての世界を扱っている。第1部と第2部で、認識に対して存在する世界は「私の表象」、眺められた世界にすぎないことを示し、それを認識する主観は意志であって、表象としての現象世界を生み出す原因となる物自体が意志にほかならないとした。それは、カントとプラトンの認識論を再構成するものである。また、第3部は美学、第4部は倫理学である。現象する世界の連関、生成を超えて、永遠にしてかつ世界の真理に達するものとして芸術とりわけ音楽が高く位置づけられる。さらに、生きんとする盲目的意志の衝動を乗り越えて、インドのベーダーンタ哲学と結び付いて禁欲と静寂が求められ、提示される。
[佐藤和夫]
『斎藤忍随他訳『意志と表象としての世界』(『ショーペンハウアー全集 2~7』1972・白水社)』