精選版 日本国語大辞典 「倫理学」の意味・読み・例文・類語
りんり‐がく【倫理学】
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世間で通用している道徳をそのまま受容するのではなく、それについて哲学的な反省を加え、どのような原理に従って生きるのが真に道徳的な生き方であるかを探究する学問。あるいは同じことだが、倫理学とは、人間はいかに生きるべきかを考え、人間らしく生きるためにはどのような生き方を選んだらよいかを探究する学である、ともいえよう。そうした意味では、ソクラテスの場合のように、倫理学はもともと哲学と一体であるが、アリストテレスによる理論学と実践学の区別は、近世以降、哲学内部における理論哲学と実践哲学の区別として定着し、今日では倫理学は実践哲学として、哲学の一部門とみなされるのが普通である。
[宇都宮芳明]
もっともこれとは別に、レビ・ブリュールやデュルケームのように、倫理学は習俗をも含めて道徳を社会的な一現象としてとらえ、その機能や構造を実証的方法によって考察する社会科学であるべきだとする見方もある。また倫理学は従来の規範倫理学のように、ある種の規範を設定したり根拠づけたりするのではなく、もっぱら「よい」とか「べき」といった道徳言語の意味や用法を価値中立的立場から分析し、それらの言語を含む文の論理的構造を明らかにすべきだといった、いわゆるメタ倫理学の見方もある。しかし道徳現象を他の現象から区別したり、道徳言語を他の言語から区別したりするためには、それに先だってすでに道徳とは何かが知られていなければならない。そうした意味で、倫理学の中心課題は、依然として道徳を道徳たらしめている原理の探究にあるといえるであろう。
[宇都宮芳明]
ところで、道徳の原理に関しても、現代の倫理学の内部でいくつかの異なった見方がある。
その一つは、道徳は人間固有の本性に根ざしており、したがっていつの時代にも変わらない普遍的な道徳が存在するとみる立場で、その代表としては功利主義の倫理があげられる。すなわち功利主義によると、人間は快を求め苦を避けるという本性をもつ。人間がこうした本性をもつ以上、道徳的によい行為とは、できるだけ多くの快を人々にもたらすか、あるいは人々からできるだけ多くの苦を取り除く行為である。いわゆる「最大多数の最大幸福」が説かれる所以(ゆえん)である。
これは、快を求めるという人間の自然的本性に道徳の基礎を置く点で、自然主義的倫理学といってよいが、他方第二の立場として、人間は歴史とともに変化する存在であり、したがって道徳も歴史とともに変化し、永遠不変な道徳は存在しないとみる立場がある。これは歴史的相対主義の立場であって、実証主義の倫理学や、これまでの道徳はいずれも階級道徳であり、階級の利益に奉仕するものだとするマルクス主義の倫理学は、この立場に属するとみてよいであろう。
そして第三に、個々の人間のあり方をあらかじめ規定しているような普遍的な人間本性は存在せず、したがって普遍的な道徳もまた存在しないとする実存主義の見方がある。たとえばサルトルによると、人間各自の実存は本質に先だつものとして自由であり、既成の価値にとらわれずに自由に自己を創造していく行為が道徳的に善である。普遍的な道徳法の存在を否定し、そのつどの状況に応じた決断を重視する状況倫理もまた、この立場にあるといえよう。
なお付け加えると、普遍的な道徳の存在を認める第一の見方はギリシア以来の伝統的な見方であり、道徳の歴史的相対性を説く第二の見方は近世の産物であり、個別的な実存の倫理を重視する第三の見方は現代に生じた見方である。しかし現代ではこの三つの見方がそれぞれなお有力な見方として鼎立(ていりつ)しているのが現状である。
[宇都宮芳明]
日本では、和辻哲郎(わつじてつろう)が、倫理学は「人の間」としての「人間」の学であるとして、独自な体系を樹立した。人間存在の根本構造は個(個人)と全(社会)の二重構造であり、それは全の否定によって個が成立し、個の否定によって全が全に還帰するという、二重の否定運動によって顕現する。道徳的善悪に関していえば、個が全を否定して全から背き出るのが悪であり、個が自らをふたたび否定して全に戻るのが善である。ここには二重構造といっても、個に対する全の優位が示されているが、しかしこうした和辻倫理学とは別に、人間を文字どおり「人の間」にあるものとしてとらえ、そうした視点から道徳の原理を探ることも可能であろう。道徳的善悪は、人間の人間に対する行為、自己の他人に対する行為のうちにもっとも明瞭(めいりょう)な形で現れる。とすれば、道徳の原理は人と人とをかけ渡す「間」の領域にあるとみることができる。それをかりに人「間」性とよべば、道徳の原理の解明にとって必要なのは、人間本性の解明ではなく、むしろこうした人「間」性の解明である、といえるであろう。
[宇都宮芳明]
『和辻哲郎著『倫理学』上下(1965・岩波書店)』▽『岩崎武雄著『倫理学』(1971・有斐閣)』▽『宇都宮芳明著『人間の間と倫理』(1980・以文社)』
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…すなわち,道とは人倫を成立させる道理として,倫理とほぼ同義であり,それを体得している状態が徳であるが,道徳といえば,倫理とほぼ同義的に用いられながらも,徳という意味合いを強く含意する。道徳と倫理の両語とも,現今では近代ヨーロッパ語(たとえば英語のmorality,ethics,ドイツ語のMoralität,Sittlichkeit,Ethik,フランス語のmorale,éthique)の訳語としての意味が強いが,これらの語はたいていギリシア語のエトスethosないしはエートスēthos,あるいはラテン語のモレスmores(mosの複数形)に由来する。ēthosという語は,第1に,たいていは複数形のēthēで用いられて,住み慣れた場所,住い,故郷を意味し,第2に,同じくたいていは複数形で,集団の慣習や慣行を意味し,第3に,そういう慣習や慣行によって育成された個人の道徳意識,道徳的な心情や態度や性格,ないしは道徳性そのものを意味する。…
…モラルという日本語をも含め,総じて近代語においては,第3の意味に重点がある。 道徳に関する哲学は倫理学(英語ではethics,ドイツ語ではEthik),あるいは道徳学(ドイツ語ではMoral),道徳哲学(英語ではmoral philosophy)と呼ばれる。moral philosophyは近代イギリスでは元来は精神哲学というほどの広い意味のものであり,たとえばA.スミスがグラスゴー大学で講義したそれは,神学,倫理学(《道徳感情論》),法学,および経済学という四つの部分から成り立っていた。…
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