(読み)もむ

精選版 日本国語大辞典 「揉」の意味・読み・例文・類語

も・む【揉】

[1] 〘他マ五(四)〙
両手に挟んで強くこする。また、手や物をこすり合わせる。
万葉(8C後)一六・三八八〇「小螺(しただみ)を い拾ひ持ち来て〈略〉辛塩に こごと毛美(モミ)
※幼学読本(1887)〈西邨貞〉五「両手にて葉を揉みながら」
② (「数珠(ずず)をもむ」意から) 仏に強く訴える。転じて、何かを強要したり、激しく責めたてたりする。
※頼政集(1178‐80頃)下「思ふ事したにもまるるまろすずの露ばかりだにかなはましかば」
大勢がからだを強く触れ合わせるようにして押し合う。また、激しく攻める。
書紀(720)仁徳五三年五月(前田本訓)「因て兵を縦ちて乗(モム)で、数百(ももあまり)の人を殺しつ」
④ 馬を鞭打ちなどして急がせる。
※義経記(室町中か)四「早打の長馳したる馬の、終夜軍には責めたりけり。もめ共もめ共、一所にて躍る様なり」
⑤ からだをはげしく動揺させる。
※申楽談儀(1430)定まれる事「さて、為手のひとりもむ所有」
⑥ (かついでいるみこしを)激しく上下などに揺り動かす。
※東京年中行事(1911)〈若月紫蘭〉五月暦「ワッショイワッショイと御輿を揉(モ)むことがなかなかに行はれて居るやうで有る」
⑦ (大きい浴槽などで、熱い湯を)激しくかきまわして温度をさげる。「湯をもむ」
⑧ 意見を出し合って議論をかさねる。
※日本の土(1955)〈読売新聞社会部〉第一案に涙の農相閣議に持出したら何日ももんだあげくに『五町歩』とこの日の最後の閣議〈略〉の夜決まってしまった」
⑨ 握ったり指先で押したりする動作をくり返す。あんまをする。
人情本・貞操婦女八賢誌(1834‐48頃)六「件の按摩は心得て、軈(やが)て後に立ち廻り、肩より腰へと按(モ)みかくるを」
⑩ (「気をもむ」「臓をもむ」などの形で) 気持を激しく動揺させる。いらだたせる。
⑪ 運動などで、相手になって鍛えてやる。また、苦労を経験させて鍛える。→もまれる
※炎の中の鉛(1962)〈中薗英助〉六「暑中稽古道場でもんでやるというおどかしではなかったのだ」
⑫ 相場が小さな変動をくりかえして、定まらない。〔取引所用語字彙(1917)〕
[2] 〘自マ下二〙 ⇒もめる(揉)

も・める【揉】

〘自マ下一〙 も・む 〘自マ下二〙
① 揉まれて柔らかくなる。揉まれて皺がよる。
洒落本・美地の蛎殻(1779)「おめへもうへをぬぎねへな。もめたら内でわるからふ」
摩擦が生じる。争いが起こる。ごたごたする。紛糾する。
※談義本・根無草(1763‐69)後「先座の委細巨細(いざこざ)、新造の人身御供、させども貰ひもめれども来る」
③ 気持が落ち着かなくなる。→気が揉める
費用がかかる。金がかかる。
評判記・もえくゐ(1677)「さてとし月をふるがみこの、もめる事をもいとはず」
⑤ (④から転じて、他動詞的に用いて) 費用を負担する。おごる。
歌舞伎傾城壬生大念仏(1702)中「『揚銭は無いぞや』『それは私がもめまする』」
天候が定まらなくなる。空模様がはっきりしない状態になる。
※歌舞伎・浮世清玄廓夜桜(1884)中幕「今日は朝から空がもめ、天窓の重い日であったが」

もめ【揉】

〘名〙 (動詞「もめる(揉)」の連用形の名詞化)
① 揉まれて皺がよること。
② あらそい。いさかい。もめごと。
※俳諧・西鶴大矢数(1681)第三二「遠ひ烟にけつく迷惑 麻袴警固になって揉(モメ)がつく」
※浄瑠璃・博多小女郎波枕(1718)長者経「こちらに大きなもめが出来て」
③ 人におごること。散財すること。また、その費用。
※俳諧・伊勢宮笥(1679)「九十三人大客をして〈弘員〉 四五貫目恋風しきってもめとなる〈貞倶〉」
※浄瑠璃・女殺油地獄(1721)下「野崎参りの入用はおれがもめ」

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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