女殺油地獄(読み)おんなころしあぶらのじごく

精選版 日本国語大辞典 「女殺油地獄」の意味・読み・例文・類語

おんなころしあぶらのじごく をんなころしあぶらのヂゴク【女殺油地獄】

浄瑠璃世話物三段近松門左衛門作。享保六年(一七二一大坂竹本座初演。大坂天満の油屋河内屋の次男与兵衛が、放蕩結果、金に困り筋向いの同業豊島屋の女房お吉を殺して金をうばうが、のちに捕えられる。主役の徹底した不良児としての性格描写は、近松世話物の中でも異色なもの。

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デジタル大辞泉 「女殺油地獄」の意味・読み・例文・類語

おんなころしあぶらのじごく〔をんなころしあぶらのヂゴク〕【女殺油地獄】

浄瑠璃世話物。三段。近松門左衛門作。享保6年(1721)大坂竹本座初演。大坂天満の油屋河内屋の次男与兵衛が放蕩ほうとうのあげく、同業の豊島屋の女房お吉を殺して金を奪い、捕らえられる。油地獄
を原作とする、野村芳亭監督による映画の題名。大正13年(1924)公開。出演、諸口十九、柳咲子、川田芳子ほか。

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改訂新版 世界大百科事典 「女殺油地獄」の意味・わかりやすい解説

女殺油地獄 (おんなころしあぶらのじごく)

人形浄瑠璃。世話物3巻。近松門左衛門作。1721年(享保6)竹本座初演。この殺人事件はすぐに歌舞伎に仕組まれて上演されているが,本作への影響関係は不明。河内屋与兵衛は小心もののくせにわがままな蕩児であるが,番頭上りの継父徳兵衛にとっては主筋にあたるので足蹴にされても折檻もできないし,実母はその徳兵衛への義理と息子への愛情にはさまれて苦しむ。勘当された与兵衛は新銀二百匁の返済に窮して隣家の油屋豊島屋(てしまや)の女房お吉に頼みこむが,ことわられてお吉を殺す。金を奪って逃げた与兵衛はお吉の法事の日に立ち寄って捕らわれる。それにしてもお吉には殺されるどんな筋合いもない。それどころか美しいが3人の子の親でもある27歳のお吉は日ごろから姉のように与兵衛のことを案じてやっており,与兵衛にとってもまた,お吉は甘えることのできるただ一人の人間であった。そのお吉が殺されるわけで,そこに不条理な逆転のドラマがあるということになるが,そのドラマをみごとに視聴覚化するのが,若い女と男が油にすべりながらもつれあう殺しの場面である。近松の他の世話浄瑠璃に見られるような悲劇的カタルシスはなく,特殊な位置をしめる作品である。そのためか当時一般うけしなかったらしく,江戸時代での再演はなかった。明治になって坪内逍遥の近松研究会で高く評価されてからは歌舞伎でもさかんに取り上げられるようになったが,それには近松の他の世話物には見られない作劇法が歌舞伎化に適したということもあった。1907年東京三崎座の女芝居で上演され,以後,2世実川延若,13世守田勘弥,2世市川猿之助(後の猿翁)らが上演。第2次世界大戦後はさらに多くの俳優によって演じられ,また,人形浄瑠璃でも復活された。

 なお,新解釈の戯曲に吉井勇作《河内屋与兵衛》(1911)がある。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「女殺油地獄」の意味・わかりやすい解説

女殺油地獄
おんなころしあぶらのじごく

浄瑠璃義太夫節(じょうるりぎだゆうぶし)。世話物。3段。近松門左衛門作。1721年(享保6)7月大坂・竹本座初演。同年5月に起こった事件を脚色。大坂・天満(てんま)の油商河内屋(かわちや)の次男与兵衛は、番頭上がりの継父徳兵衛の寛容に乗じて放蕩(ほうとう)を尽くし、野崎詣(まい)りの徳庵(とくあん)堤で女をめぐって大げんかをしたすえ、徳兵衛に金と家督を強要して暴力を振るう。思い余った徳兵衛夫婦は与兵衛を勘当するが、それでも息子かわいさ、町内の同業豊島屋(てしまや)の女房お吉(きち)に小遣いを託す。与兵衛は親の慈悲に感動したものの、彼は父の偽判(にせはん)で大金を借り返済を迫られていたので、お吉に融通を頼むが、断られるとふたたび分別を失い、お吉を殺して金を奪い、その三十五日の逮夜(たいや)に召し捕られる。江戸時代には上演が絶えていたが、明治になると主人公の近代的な性格描写や、これをめぐる継父、実母、お吉らの義理と人情の機微、また油に滑るお吉殺しの凄惨(せいさん)な迫力などが高く評価され、明治末年に2世実川延若(じつかわえんじゃく)が復活上演。以来、しばしば演じられるようになり、第二次世界大戦後は文楽人形浄瑠璃でも新しい節付けによって復活上演されている。

[松井俊諭]

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百科事典マイペディア 「女殺油地獄」の意味・わかりやすい解説

女殺油地獄【おんなごろしあぶらのじごく】

浄瑠璃。近松門左衛門作。1721年初演。大坂天満(てんま)の油商河内屋(かわちや)与兵衛が,番頭上がりの継父の遠慮につけ込んで不良化し,借金に迫られて隣家の女房お吉に金の無心をし,ついに殺して金を奪う話。殺しの場面に油を使った凄惨(せいさん)な描写が珍しい。近松の世話物中特異な作品で,江戸時代の再演はなく,明治以後さかんに歌舞伎でも上演されるようになった。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「女殺油地獄」の意味・わかりやすい解説

女殺油地獄
おんなころしあぶらのじごく

浄瑠璃。世話物。3巻。近松門左衛門作。享保6 (1721) 年大坂竹本座初演。大坂河内屋の放蕩息子与兵衛が,両親の愁嘆を立聞きして改心するが,借金返済のため豊島屋七左衛門の妻お吉に無心をし,断られて彼女を惨殺する。その悲惨な内容から,江戸時代には再演・改作が行われなかったが,与兵衛の近代的な不良性が関心をひいて坪内逍遙の近松研究会に評価され,明治末期以降しばしば復活上演されている。

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デジタル大辞泉プラス 「女殺油地獄」の解説

女殺油地獄

1992年公開の日本映画。監督:五社英雄、脚本:井手雅人、撮影:森田富士郎、美術:西岡善信、音楽:佐藤勝。出演:樋口可南子、藤谷美和子、堤真一、長門裕之、石橋蓮司、辰巳琢郎、佐々木すみ江ほか。第16回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞(藤谷美和子)ほか受賞。

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旺文社日本史事典 三訂版 「女殺油地獄」の解説

女殺油地獄
おんなごろしあぶらのじごく

江戸中期,近松門左衛門の世話物浄璃瑠
1721年大坂竹本座で初演。3段。大坂の河内屋与兵衛が同町筋向いの油屋豊島屋の妻お吉を殺害して金を奪う話であるが,元禄時代の自己本位で無軌道,ドライな青年を描いた近松晩年の傑作とされる。

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歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典 「女殺油地獄」の解説

女殺油地獄
おんなごろし あぶらのじごく

歌舞伎・浄瑠璃の外題。
作者
大森痴雪
初演
昭和8.3(東京・東京劇場)

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