日本大百科全書(ニッポニカ) 「支払準備率操作」の意味・わかりやすい解説
支払準備率操作
しはらいじゅんびりつそうさ
reserve requirements operation
銀行その他の金融機関は、顧客からの預金の引出しに備えて一定の支払準備を保有しなければならないが、預金などの一定割合(支払準備率)の資金を無利子で強制的に中央銀行に預け入れさせ、この準備率を随時上下に変更することによって、銀行の信用拡大のベースになる現金準備額を直接増減して、その与信活動を調節する政策手段である。すなわち、銀行の与信活動の抑制のためには支払準備率が引き上げられ、逆にそれを拡大させるためには支払準備率が引き下げられる。この制度は、もともとアメリカにおいて預金者保護を目的として創設されたが、1930年代ごろから銀行の余剰資金を吸収するために金融政策手段として用いられるようになった。海外先進国では第二次世界大戦前から支払準備率は公定歩合操作、公開市場操作とともに伝統的な政策手段の一つになっていた。公定歩合操作や公開市場操作の効果が市場機構を通じて波及するのに対して、支払準備率操作は対象金融機関に対して強制的かつ一律的に適用されるので、金融機関の流動性への影響は直接的であり、強力かつ持続的である。したがって、これは金融政策の転換を示すなど、公定歩合の変更と組み合わせて実施されてきた。
日本では、1957年(昭和32)「準備預金制度に関する法律」が制定され、1959年9月に初めて同法に基づいて銀行預金に対し準備率が設定された(準備率は金融機関、預金残高、債務の種類などによって異なる)。その後1972年には海外からの短資流入に対処して同法の改正により対象金融機関・債務が拡大され、とくに1973~1974年の金融引締めには再三にわたり準備率は引き上げられた。しかし近年、海外の先進国の例をみても、準備率操作は政策手段としてあまり用いられなくなり、日本でも1991年(平成3)10月の準備率の引下げを最後に2008年現在までその変更は行われていない。
[石田定夫]