放浪学生(読み)ほうろうがくせい(その他表記)clerici vaganti[ラテン]

改訂新版 世界大百科事典 「放浪学生」の意味・わかりやすい解説

放浪学生 (ほうろうがくせい)
clerici vaganti[ラテン]

中世のヨーロッパで,修学途中で脱落し,あるいは大学を出ても就職できぬまま,地方を放浪した学生の総称。大学の数が増え,需給のバランスの崩れた13世紀に多く輩出した。放浪学僧とも呼ばれるが,この訳語は,中世の学生が聖職者身分に属していたことに由来する。その語源は明らかではないが,しばしばペリシテ人ゴリアテGoliathと結びつけられたゴリアルドゥスgoliardus(ゴリアールgoliard)の名で呼ばれることもある。酒色におぼれ,高位聖職者,ときには教皇庁を攻撃するのみならず,聖書や祈禱文をもじった不穏な言葉をまき散らすかどで,トレーブの教会会議(1227)をはじめ,繰返し教会の厳しい非難の対象となった。

 酒と女から得られる快楽を歌い,高位聖職者を風刺したいわゆるゴリアルドゥス詩の作者のうち,著名なのはケルンのアルキポエタ(〈大詩人〉の意),オルレアンのユゴー,プリマス(プリマト),シャティオンのゴーティエらである。また,逸名作者の詩と旋律を収めた写本も伝わっている(《カルミナ・ブラーナ》が有名)。ただし,いわゆるゴリアルドゥス詩がすべて放浪学生の手になったとする確証はなく,大部分は安定した身分の教養人の習作だとする説も有力である。実際,放浪学生のうち文才に恵まれた者,とりわけラテン語の詩を操る者の数は限られていたであろう。また,俗語(たとえばフランス語)の作品に手を出す者もいたと思われる。なお,ゴリアルドゥス詩の文言反抗の歌)を真に受けて,彼らが一定組織セクトを形成したとする見解は否定されている。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の放浪学生の言及

【旅】より

…結婚し,一家をかまえたとき彼らの旅の生活は終わる。 基本的には同様な旅の生活を職人や放浪学生も送っていた。多くの職人たちには都市成立以後ギルドやツンフトのなかで徐々に親方に昇進する可能性が薄くなっていた。…

※「放浪学生」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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