改訂新版 世界大百科事典 「文芸時評」の意味・わかりやすい解説
文芸時評 (ぶんげいじひょう)
新しい文学作品の評価や文壇の時事的な問題を論ずる批評ジャンル。明治中期に各新聞雑誌が掲載した〈月旦(げつたん)〉が前身であるが,読書界にその効用を認識させたのは,1896年《めさまし草》に連載された〈三人冗語(さんにんじようご)〉(森鷗外,幸田露伴,斎藤緑雨)以来で,樋口一葉や田山花袋の登場を促した。明治中期の内田魯庵,石橋忍月による先駆的な仕事をうけつぐ形で,明治末から昭和にかけては,近松秋江,正宗白鳥,佐藤春夫,広津和郎その他が,この分野を拡大してきた。そして,1922年以来20年間にわたって文芸時評を続けた川端康成と,33年ごろから約30年間月評家をもって鳴らした十返肇(1914-63)が文壇の生き証人,目撃者の立場をとった現場主義的な批評を代表し,1930年から文芸時評をはじめた小林秀雄や,35年から新鋭として認められた中村光夫(1911-88)らが,原理的批評を代表することになる。なお,80-82年に発表された吉本隆明(1924-2012)の文芸時評は,文学創造の本質を把握したものとして高く評価された。なお海外の文芸時評は,学術的か,よりジャーナリスティックであり,日本の場合とは性格を異にしている。
執筆者:紀田 順一郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報