吉本隆明(読み)ヨシモトタカアキ

デジタル大辞泉 「吉本隆明」の意味・読み・例文・類語

よしもと‐たかあき【吉本隆明】

[1924~2012]詩人・文芸評論家・思想家東京の生まれ。次女小説家吉本ばなな文学大衆文化政治宗教など、広範な領域で評論・思想活動を行う。著書に「高村光太郎」「言語にとって美とは何か」「共同幻想論」「言葉からの触手」など。

よしもと‐りゅうめい【吉本隆明】

よしもとたかあき(吉本隆明)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「吉本隆明」の意味・わかりやすい解説

吉本隆明
よしもとたかあき
(1924―2012)

詩人、評論家。東京に生まれる。東京工業大学電気化学科卒業。いくつかの会社を組合運動で追われるが、その間、戦中世代として受けた敗戦の衝撃からの精神的転機を図る思想劇ともいうべき、詩集『固有時との対話』(1952)、『転位のための十編』(1953)、評論『マチウ書試論』(1954)などを発表して注目された。ついで、戦後革命とその挫折(ざせつ)を弾劾する論拠として、戦前戦後のマルクス主義文学者の戦争責任を糾明する評論『文学者の戦争責任』(1956)から、さらに転向の原因を権力の強制による屈服とする通説に反して、大衆からの知識人の孤立として剔抉(てっけつ)する評論『転向論』(1958)に及ぶ、非共産党左翼の思想と論理の確立に努めた。安保闘争に際して「全学連」を支持し、1961年(昭和36)「自立」を掲げ、谷川雁村上一郎(1920―1975)と『試行』(1964年に個人誌に切り換え)を創刊。「大衆の原像」論の視点から『日本のナショナリズム』(1964)、『自立の思想的拠点』(1966)の刊行を経て、それを『共同幻想論』(1968)の刊行によって結実する一方、文学における言語表現の分析『言語にとって美とは何か』(1965)、心的世界の解明『心的現象論序説』(1971)の刊行によって既成のプロレタリア芸術論を排した。その後、多様化した評論活動として、『源実朝(さねとも)』(1971)、『源氏物語論』(1981)等の古典文学論、『最後の親鸞(しんらん)』(1976)、『〈信〉の構造』(1983)等の宗教論、『悲劇解読』(1979)、『宮沢賢治』(1989)等の現代文学論、『マス・イメージ論』(1984)、『ハイ・イメージ論Ⅰ・Ⅱ』(1989、1990)等の大衆論と表現論を融合する取組み等、文学と思想の浩瀚(こうかん)な著書によって、不断に革新の展望を開いた。

[古木春哉 2016年9月16日]

『『吉本隆明全著作集』15巻・続3巻(1968~1975、1978・勁草書房)』『『吉本隆明全集撰』全6冊(1986~1988・大和書房)』『吉本隆明研究会編『吉本隆明が語る戦後55年』1~12(2000~2003・三交社)』『『吉本隆明全集』38巻・別巻1(2014〜 ・晶文社)』『『共同幻想論』改訂新版(角川文庫)』『『心的現象論序説』改訂新版(角川文庫)』『『マチウ書試論・転向論』(講談社文芸文庫)』『『源氏物語論』(ちくま学芸文庫/洋泉社・MC新書)』『『ハイ・イメージ論1~3』(福武文庫/ちくま学芸文庫)』『『宮沢賢治』(ちくま学芸文庫)』『吉本隆明著『わが「転向」』(文春文庫)』『『定本言語にとって美とはなにか1~2』(角川文庫)』『鮎川信夫著「吉本隆明論」(『吉本隆明詩集』所収・1958・ユリイカ)』『磯田光一著『吉本隆明論』(1971・審美社)』『菅孝行著『吉本隆明論』(1973・第三文明社)』『埴谷雄高著『吉本隆明を「読む」』(1980・現代企画室)』『好村冨士彦著『真昼の決闘――花田清輝・吉本隆明論争』(1986・晶文社)』『神山睦美著『吉本隆明論考――了解を基礎づけるもの』(1988・思潮社)』『松岡祥男著『吉本隆明と吉本ばななのあいだ』(1990・大和書房)』『鷲田小弥太著『吉本隆明論――戦後思想史の研究』(1990/増補版・1992・三一書房)』『斎藤慎爾編『埴谷雄高・吉本隆明の世界』(1996・朝日出版社)』『吉本隆明・吉本ばなな著『吉本隆明×吉本ばなな』(1997・ロッキング・オン)』『芹沢俊介著『主題としての吉本隆明』(1998・春秋社)』『小浜逸郎著『吉本隆明――思想の普遍性とは何か』(1999・筑摩書房)』『岡井隆著『吉本隆明をよむ日』(2002・思潮社)』『竹田清嗣著『世界という背理――小林秀雄と吉本隆明』(講談社学術文庫)』

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「吉本隆明」の解説

吉本隆明 よしもと-たかあき

1924-2012 昭和後期-平成時代の詩人,評論家。
大正13年11月25日生まれ。次女によしもと ばなな。昭和27年詩集「固有時との対話」,28年「転位のための十篇」を発表。29年「マチウ書試論」を発表。30年代には「高村光太郎」「芸術的抵抗と挫折」などで文学者の戦争責任や転向を問い論壇に登場。既成左翼の思想を批判し六○年安保闘争では全学連主流派を支持。36年谷川雁(がん),村上一郎と「試行」を創刊。以降,文学から思想におよぶ諸領域で独自の理論を構築し,「言語にとって美とは何か」「共同幻想論」「心的現象論序説」などを刊行,50年代には「マス・イメージ論」「ハイ・イメージ論」などを発表。平成24年3月16日死去。87歳。東京出身。東京工業大卒。著作はほかに「自立の思想的拠点」「最後の親鸞」「夏目漱石を読む」「心的現象論本論」など。

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百科事典マイペディア 「吉本隆明」の意味・わかりやすい解説

吉本隆明【よしもとたかあき】

詩人,評論家。東京生れ。東京工業大学卒。1952年詩集《固有時との対話》を私家版で刊行。以後,詩集《転位のための十篇》,評論《高村光太郎》や《文学者の戦争責任》(共著)などで既成左翼を超える文学・政治思想を確立する。1960年安保闘争への関与(その発言は《擬制終焉》(1962年)など収録)以降,その思想は1960年代末の全共闘運動など左翼学生・労働者闘争に広汎な影響を与えている。また1961年同人誌《試行》を創刊(11号以降単独編集),言語を〈表現〉とみる言語論を導入した《言語にとって美とは何か》(1965年),国家の共同性の問題を扱った《共同幻想論》(1968年),《心的現象論序説》(1971年)など数々の評論を発表。古典文学論に《源実朝》《初期歌謡論》,宗教論に《最後の親鸞》などがある。他に《〈反核〉異論》《マス・イメージ論》など,多数の著作があり,著作集がある。
→関連項目井上光晴奥野健男

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「吉本隆明」の意味・わかりやすい解説

吉本隆明
よしもとたかあき

[生]1924.11.25. 東京
[没]2012.3.16. 東京
詩人,評論家。山形県の米沢高等工業学校を経て 1947年東京工業大学電気化学科を卒業。少年時代に通った今氏乙治塾で内外文学にふれ,大きな影響を受けた。1952~56年東洋インキ青砥工場に勤務,かたわら詩作に没頭,初の詩集『転位のための十篇』(1953。1954「荒地」詩人賞)などをまとめた。次いで『高村光太郎』(1957)に集大成される一連の高村光太郎論,プロレタリア文学の戦争責任を問う『文学者の戦争責任』(1956,共著)などで,独創的なモチーフと鋭利な語りくちの評論家として自立した。1962年に既成の左翼思想を批判した『擬制の終焉』を発表し,新左翼の理論的支柱と目された。その後『言語にとって美とは何か』(1965)や『共同幻想論』(1968)などで,言語,文学,思想についての新しい理論構築を目指した。さらに評論活動は多様化し,『最後の親鸞』(1976),『初期歌謡論』(1977),『悲劇の解読』(1979),『マス・イメージ論』(1984)など多数の著書がある。1980年代には消費資本主義を擁護し,サブカルチャーや広告などの評論も手がけた。雑誌『試行』(1961~97)を主宰。

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367日誕生日大事典 「吉本隆明」の解説

吉本 隆明 (よしもと たかあき)

生年月日:1924年11月25日
昭和時代;平成時代の文芸評論家;詩人

出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の吉本隆明の言及

【転向文学】より

…当初は転向者の書いたものを転向文学と呼んだが,やがて転向の経緯や良心の表白,再起の決意,そして自虐的退廃やファシズムへの転化などの諸相が転向文学の広さ深さを開示し,戦争下の文学状況と本質的・方法的に骨がらみの様相を呈した。戦後,思想の科学研究会編著《転向》が明治以来の日本人の思想信条のありようをめぐって論じたし,吉本隆明《転向論》が非転向の宮本百合子よりも転向した中野重治(《村の家》)を優位とする観点を打ち出した。ジッドやケストラーら外国文学者の場合をも検討しながら,文学者の戦後責任や,いわゆる戦後文学の生成を論ずるうえでも欠かせぬ論点となってきている。…

【文芸時評】より

…そして,1922年以来20年間にわたって文芸時評を続けた川端康成と,33年ごろから約30年間月評家をもって鳴らした十返肇(1914‐63)が文壇の生き証人,目撃者の立場をとった現場主義的な批評を代表し,1930年から文芸時評をはじめた小林秀雄や,35年から新鋭として認められた中村光夫(1911‐88)らが,原理的批評を代表することになる。なお,80‐82年に発表された吉本隆明(1924‐ )の文芸時評は,文学創造の本質を把握したものとして高く評価された。なお海外の文芸時評は,学術的か,よりジャーナリスティックであり,日本の場合とは性格を異にしている。…

※「吉本隆明」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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