日本大百科全書(ニッポニカ) 「明日に向って撃て!」の意味・わかりやすい解説
明日に向って撃て!
あすにむかってうて
Butch Cassidy and the Sundance Kid
アメリカ映画。監督ジョージ・ロイ・ヒル。1969年作品。ハリウッドの大手製作スタジオの興行収入競争の本格化という背景、時代を投影した反体制的でシニカルな視点、古典ジャンルへの懐古と革新的な映像表現との組合せなど、多くの点でアメリカン・ニュー・シネマの幕開けを告げる映画史的分岐点となった西部劇作品。物語の筋は、強盗を生業(なりわい)とし、『大列車強盗』(1903)のような古典西部劇であればヒーローであろう二人の主人公が、近代化によって西部劇の象徴的舞台である西部の荒野から南米へと追いやられていく刹那(せつな)的な逃避行。古典西部劇にはみられない生々しい性や暴力の描写も挿入される。結末部の凍結フレームで表現する死のメタファー(隠喩(いんゆ))、フラッシング技術(故意に短時間ネガを光に露出させ、映像上の色合いは薄くなるがスピード感を出す技術)など、斬新な映画技法を駆使している。西部劇というジャンルの確立期から、パロディ化などを含む変容期を経て、自らを回顧する時期に入ったことを告げた作品でもある。1969年アカデミー脚本賞、撮影賞など4部門受賞。1970年(昭和45)日本公開。
[堤龍一郎]