ヤスパースの用語。ヤスパースは実存哲学を,包越者 Das Umgreifendeを対象とする形而上学でなければならないとするが,包越者は客観的対象としてはとらえられない暗号文字として実存にのみ現れる。人間は現存在として歴史的,社会的,その他あらゆる制約の必然性のもとにあり,これらは自由に実存しようとする者にとって必然的な状況,すなわち死,苦悩,闘争,責任などの限界状況 Grenzsituationとなる。この状況にぶつかって挫折し,それに耐える覚悟が実存であり,実存相互の交わり Kommunikationのただなかで,この状況の必然性は,自己と世界を包みこえる超越的存在の暗号をあらわす。実存は自由において理性をもってこの暗号を解読することによって超越的存在に出会うとされる。