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形而上学 けいじじょうがくmetaphysics

翻訳|metaphysics

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

形而上学
けいじじょうがく
metaphysics

基本的な哲学の仮説を批判的に考察し,存在するものはそれが存在するかぎり何であるかを明らかにしようとする哲学の一分野。「自然学書の次の書」を意味するギリシア語 ta meta ta physikaに由来し,形而上学という訳語は,『易経』繋辞伝からとられた。ヘレニズム期にアリストテレスの表題なしの著作を,ロドスアンドロニコスがそのように呼んだのに始る。形而上学は論理学,認識論,美学,倫理学などの他の哲学的研究とも影響し合い,伝統的に幅広い哲学的な問題に関連してきた。最も基本的な問題は古代ギリシアの哲学者たちが最初に取組んだもので,形相の存在と本質,すなわち心の対象である抽象的な現実という問題である。ギリシア哲学者たちが現実の世界のもの (知覚できるもの) と心の対象 (観念) を区別して以来,形而上学者たちは抽象と物質の関係にたずさわり,両方が存在するのか,あるいはどちらか一方がもう一方より確かに存在するのかを確かめようとした。形而上学者は,自然界,時間と空間の重要性,神の存在と本質を解明しようとしたが,すべて形相と観念の関係を理解しようとする試みだった。
形而上学の主張はおおむね先験的な立場である。先験主義は,基本的で相互に矛盾のない仮説から出発し,それらを論理的な結論まで発展させる。この演繹的なプロセスの間に不合理が起れば,元の仮説を捨てるか,見直さなければならない。形而上学の結論は,その性質上あまりにも一般的でありとあらゆるものを含む主張なので,経験的事実を述べたものというよりは考え方の模範を示したものであり,それを反証を使って論駁するのは効果的な批判とはいえない。そのうえ,新しい知識が古い信念に取って代る経験科学とは異なり,矛盾する無数の形而上学的な理論はすべて時間の試練に耐えており,唯一の形而上学的な真理は存在しないという概念に立脚している。最初の形而上学者であるパルメニデスプラトンは,外観と実体の基本的な違いを認めた。プラトンは,変ることがないゆえに真実である観念の世界を支持して,知覚できる世界における移ろいやすくあてにならない現実を否定した。アリストテレスはプラトンの形相と質料の区別から始めて,生物学モデルを用いてこの2つを統合し,質料は常に潜在的な理想形相に向って動いている,と考えた。このようにして,物質世界は有機的な変化の連続体とみなされる。キリスト教の発展に伴って,哲学者たちは神の実在の先験的論拠を発見することに関心をいだきはじめた。トマス・アクィナスの形而上学に基づくトミズムは,アリストテレスの思想とキリスト教思想を結びつけた。トマスによると,日々の黙想 (アリストテレスによる形相と質料の関係の考察の基礎) は必然的に神の実在の理解につながり,物質世界を支える最も重要な要因である。有限で変転きわまりない物質世界を考察することによって,人はその変化の原因,つまり神に必ず導かれる。
形而上学の思想にもう一つの大きな転換をもたらしたのは,R.デカルトである。デカルト二元論の哲学は,物質世界と精神世界を別個の独立した領域と定義した。キリスト教哲学者が提唱した神の概念を否定して,物質世界は主因によってつくられるが,その後は巨大な機械のように神の影響とはかかわりなく動く,とデカルトは仮定した。 I.カント二元論は認めたがデカルトの理論は受入れず,知覚の重要性を示して形而上学に革命を起した。カントによると,物質的現実は時間と空間という人間のつくった構成概念を通じて知覚しなければならない。したがって,物質世界に対する見方は常に知覚のメカニズムによって影響を受ける。カントは初期の形而上学者が物質的現実と考えたものをそのように否定し,すべての観察を観察のメカニズムに従属させた。唯物論観念論は,精神と物質の概念を一つの理論のなかで統合しようと試みた。観念論者は,物質を精神に従属させることによって2つの領域を合流させた。唯物論者は正反対の立場をとり,精神を物質に従属させて,存在するのはすべて物質で精神は物質的な状況に依存すると主張した。
哲学者の一部は,形而上学の方法論と結論の有効性を問題にした。 D.ヒュームはあらゆる知識は知覚を通じて入ってくると主張し,すべての基本概念は知覚の経験から生れるのであって,純粋な思惟など存在しない,と結論づけた。 20世紀の論理実証主義は,すべての主張の意味はそれがどのように証明されるかに依存していると主張し,形而上学的主張には意味がないとの結論を下した。 L.ウィトゲンシュタインの批判によると,形而上学的経験は言語の範囲をこえたもので,物事には語ることのできることと,見せることしかできないことがあり,形而上学的な理論化は言語が明らかにできる範囲外の領域について語ろうとしているためにうまくいかないとしている。

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デジタル大辞泉の解説

けいじじょう‐がく〔ケイジジヤウ‐〕【形×而上学】

《metaphysics自然学のあとの(〈ギリシャ〉ta meta ta physika)書の意。後世、ロードスアンドロニコスがアリストテレスの著作編集に際して採った配列に由来》
アリストテレスでは、あらゆる存在者を存在者たらしめている根拠を探究する学問。すなわち第一哲学または神学
現象的世界を超越した本体的なものや絶対的な存在者を、思弁的思惟や知的直観によって考究しようとする学問。主要な対象は魂・世界・神など。

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百科事典マイペディアの解説

形而上学【けいじじょうがく】

英語metaphysicsなどの訳。この訳語は《易経》の〈形而上を道と謂(い)う〉の語に基づき,《哲学字彙》(1881年)以来のもの。原語はアリストテレスの講義草稿を整理する際,編者のアンドロニコスが,自然学フュシカ)の後に(メタ)無題の草稿を置いて,〈自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)〉と呼んだことに由来する。
→関連項目イメージ認識論

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世界大百科事典 第2版の解説

けいじじょうがく【形而上学 metaphysics】

哲学の諸分野,諸原理の最高の統一に関する理論的自覚体系。語源的には,アリストテレスの講義草稿をローマで編集したアンドロニコスが,《自然に関する諸講義案(タ・フュシカ)》すなわち自然学の後に(メタ),全体の標題のない草案を置き,《自然学の後に置かれた諸講義案(タ・メタ・タ・フュシカ)》と呼び,これがメタフュシカmetaphysicaと称されたことに基づく。内容的には,第二哲学としての自然学に原理上先立つ存在者の一般的規定を扱う第一哲学,自然的存在者の運動の起動者としての神を扱う神学を含む。

けいじじょうがく【形而上学 Metaphysica】

アリストテレスの主著の一つ。原題の〈メタフュシカ〉は本来〈自然学(フュシカ)の後に(メタ)あるもの〉という意味で,彼の死後2世紀余を経てその講義用論文が集められて〈著作集〉に編まれた際の配列に由来すると伝えられる。この名称は,この書の内容のゆえに〈自然学を超えてあるもの〉と解されるようになり,一般にある学問をそれを超えた視点からとらえて基礎づけを行う学問を〈メタ~学〉と呼ぶ〈メタ〉の用法もここから生じた。

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大辞林 第三版の解説

けいじじょうがく【形而上学】

存在者を存在者たらしめている超越的な原理、さらには神・世界・霊魂などを研究対象とする学問。第一哲学。
客観的実在やその認識の可能を端的に認める哲学的立場。不可知論や実証主義の立場から独断論や実在論を称した語。
事実を離れて抽象的なものにだけとどまる議論を揶揄やゆしていう語。
書名(別項参照)。

けいじじょうがく【形而上学】

アリストテレスの中心著作。全一四巻。彼自身は「第一の哲学」と呼び、ありとしあるものについての普遍学としての存在論と、究極第一に有る実在をめぐる神学に区分される。

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世界大百科事典内の形而上学の言及

【アリストテレス】より

…彼の哲学を完結した体系として扱う後世の研究態度はここに由来する。〈著作集〉中の主要な作品を伝統的な配列に従って列挙すると,(1)〈オルガノン〉(〈道具〉の意)と総称される論理学的著作:《カテゴリアイ(範疇(はんちゆう)論)》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ(論拠集)》《ソフィストの論駁法》,(2)自然学:《自然学講義》《天体論》《生成消滅論》《気象学》《デ・アニマ(心魂論)》《自然学小論集》《動物誌》《動物部分論》《動物運動論》《動物進行論》《動物発生論》,(3)第一哲学:《形而上学》,(4)実践学・製作学:《ニコマコス倫理学》《エウデモス倫理学》《政治学》《弁論術》《詩学(創作論)》となる。これとは別に最初から公表を意図して書かれた作品もあったが,以後しだいに忘れられるようになり,今日では《魂について(エウデモス)》《哲学のすすめ(プロトレプティコス)》《哲学について》などの一部が,後世の人が断片的にまたは要約して引用した形で残されているにすぎない。…

【西洋哲学】より

…ここでは,西洋のこの哲学知の基本的概念装置を検討し,この知の本質的性格と,それを原理に形成された西洋文化の特質を洗い出してみたい。
【自然(フュシス)と形而上学(メタフュシカ)】
 ギリシアの古典時代にソクラテスやプラトン,アリストテレスらの思想のなかで生まれ形をととのえたこの〈哲学〉と呼ばれる知は,当時のギリシア人の一般的なものの考え方に対していかなる関係にあったのか。それを昇華し純化するものであったのか,それともそれとはまったく異質のものであったのか。…

【アリストテレス】より

…彼の哲学を完結した体系として扱う後世の研究態度はここに由来する。〈著作集〉中の主要な作品を伝統的な配列に従って列挙すると,(1)〈オルガノン〉(〈道具〉の意)と総称される論理学的著作:《カテゴリアイ(範疇(はんちゆう)論)》《命題論》《分析論前書》《分析論後書》《トピカ(論拠集)》《ソフィストの論駁法》,(2)自然学:《自然学講義》《天体論》《生成消滅論》《気象学》《デ・アニマ(心魂論)》《自然学小論集》《動物誌》《動物部分論》《動物運動論》《動物進行論》《動物発生論》,(3)第一哲学:《形而上学》,(4)実践学・製作学:《ニコマコス倫理学》《エウデモス倫理学》《政治学》《弁論術》《詩学(創作論)》となる。これとは別に最初から公表を意図して書かれた作品もあったが,以後しだいに忘れられるようになり,今日では《魂について(エウデモス)》《哲学のすすめ(プロトレプティコス)》《哲学について》などの一部が,後世の人が断片的にまたは要約して引用した形で残されているにすぎない。…

【存在論】より

…ギリシア語の〈在るものon〉と〈学logos〉から作られたラテン語〈オントロギアontologia〉すなわち〈存在者についての哲学philosophia de ente〉に遡(さかのぼ)り,17世紀初頭ドイツのアリストテレス主義者ゴクレニウスRudolf Gocleniusに由来する用語。同世紀半ば,ドイツのデカルト主義者クラウベルクJohann Claubergはこれを〈オントソフィアontosophia〉とも呼び,〈存在者についての形而上学metaphysica de ente〉と解した。存在論を初めて哲学体系に組み入れたのは18世紀のC.ウォルフであり,次いでカントであった。…

※「形而上学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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