日本大百科全書(ニッポニカ) 「最大値原理」の意味・わかりやすい解説
最大値原理
さいだいちげんり
ガウス平面(複素平面)の領域Dで定義された正則関数の絶対値が最大値をとるのは、Dの境界上に限るという定理をいい、応用が広い。同様に最大値原理は、調和関数や、もっと一般に楕円(だえん)形の偏微分方程式の境界値問題の解に対してもいえる。これから、解の一意性が導かれる。
[洲之内治男]
ポントリャーギンの最大値原理
ある種の微分方程式は、それと同等な変分問題(汎(はん)関数の極値問題)に帰着させることができる。制御の問題に対し、ポントリャーギン関数の極値問題にすることを、ポントリャーギンの最大値原理という。
〔例〕実軸上の-1の点に静止している質量1の質点を加速して点1まで運び、そこで速度0になるように、しかも、もっとも速く点1に到達させるには、どのような操縦をすればよいか。ただし、加速度は|u(t)|≦1とする。
この問題は、関数u(t)(これを制御関数という)を求めることになるが、これを数式化してみよう。時刻tにおける点の位置をx(t)で表し、y1(t)=x(t), y2(t)=x′(t)と置くと、y2(t)が速度、y2′(t)が加速度になる。与えられた条件は、
|u(t)|≦1,
y1′(t)=y2(t), y2′(t)=u(t),
y1(0)=-1, y2(0)=0, y1(s)=1, y2(s)=0,
このとき、所要時間を最小にするu(t)を求めよ、という問題になる。この最適解の必要条件を与えるため、ポントリャーギン関数
H(y, u, p,λ0)=p1y2+p2u-λ0
を考える。y1(t), y2(t), u(t)が前の最小値問題の解であるならば、λ0,α1,α2および関数p1(t), p2(t)が決まり、u(t)の連続な点tで、
を満足し、
となる、というのがポントリャーギンの最大値原理である。
ここに得られた関係式から解を求めると、x=0まではu(t)=1とし、x>0ではu(t)=-1とするのが最適制御で、最小時間は2となる。
[洲之内治男]