改訂新版 世界大百科事典 「調和関数」の意味・わかりやすい解説
調和関数 (ちょうわかんすう)
harmonic function
n(≧2)次元ユークリッド空間の領域Dにおいて定義された関数u(P)=u(x1,……,xn)が,連続な2階偏導関数をもち,ラプラスの偏微分方程式,を満たすならば,uはDにおいて調和であるという。
uがDで調和のとき,任意のP∈Dと,Pを中心とする任意の閉球B⊂D,その表面Sについて,が成り立つ。ここにrはBの半径,τnと σnはn次元単位球の体積と表面積,dτとdσは体積要素と面積要素を表す。つまりuのPにおける値は,uのBまたはSでの平均値に等しい。これを平均値性質という。逆に,連続性の仮定の下に,この性質をもつ関数は調和関数である(ガウスの定理Gauss' theorem)。
uがDで調和のとき,uが定数でないかぎり,uはDにおいて最大値も最小値もとらない。したがって,Dがコンパクトであり,しかもuがDの閉包で連続のときは,最大値および最小値はDの境界でとられる。これを最大値の原理という。
n=2の場合,調和関数は正則関数と密接な関係がある。まず,正則関数,
f(z)=u(x,y)+iv(x,y)
の実部uと虚部vは,コーシー=リーマンの方程式を満たし,そのことから⊿u=⊿v=0が導かれる。すなわちuとvは調和である。逆に任意の調和関数uを領域Dで与えたとき,もしDが単連結ならば,D内の曲線に沿う線積分を用いた,も調和であって,f=u+ivは正則関数となる。この事実に基づいて,二次元の調和関数の理論は関数論の重要な1章をなしている。
ラプラス偏微分方程式に関する境界値問題のうち,次のものをディリクレ問題Dirichlet problemという。領域Dの境界∂Dに関数fを与えたとき,そこでfと一致するようなDの調和関数uを求める。とくに,Dが原点Oを中心とする半径rの球であるとき,∂Dの連続関数fに対するディリクレ問題の解は,で与えられる。これをポアソン積分Poisson integralという。
執筆者:及川 広太郎
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報