改訂新版 世界大百科事典 「有徳(得)人」の意味・わかりやすい解説
有徳(得)人 (うとくにん)
〈うとくじん〉〈うとくしゃ〉ともいう。徳=得であり,福徳有る人という意味で,金銀財宝をたくさん所有する裕福な人を指す。鎌倉後期から室町時代に盛んに史料に現れ,江戸時代の仮名草子,浮世草子にも出てくる。《沙石集》に〈或山寺に有徳の房主〉や〈酤酒家の徳人の尼〉と見えるように,借上(かしあげ),土倉(どそう),酒屋などの金融業者,商工業者の富裕なものを指す。虎明本狂言の〈三人の長者〉の〈長者の有徳人〉のように,有徳の長者と表現される場合も多い。一般に,鎌倉時代から浸透してくる商品経済の利得で致富にいたった凡下(ぼんげ)身分のものを指す言葉であり,成金的色彩をもっている。領主身分の人の領主的収取による富を指す語ではない。彼らは慳貪(けんどん)と見られ,滅罪のための寄進などを行うものもあった。六角堂本堂の造営に1200貫文を寄進した徳人や,日蓮宗の外護者の京都の町人たちは,その代表的な存在といえよう。
執筆者:脇田 晴子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報