日本大百科全書(ニッポニカ) 「正倉院薬物」の意味・わかりやすい解説
正倉院薬物
しょうそういんやくぶつ
奈良東大寺の北西に位置する正倉院に納められている薬物。2系統があり、一つは756年(天平勝宝8)に聖武(しょうむ)天皇死去に際して、四十九日の忌日に光明(こうみょう)皇太后により東大寺の大仏(盧遮那仏(るしゃなぶつ))を供養すると同時に、広く病苦にある者に対して給付し救済するために献じられたもの。計60種あり、すべて「種々薬帳」(東大寺献物帳)に記載されており、帳内薬物とよばれる。他の一つは、記録にはなく収納の由来がはっきりしないもので、帳外薬物とよばれる。これらの多くは天平(てんぴょう)時代にもたらされた薬物で、古代薬物を研究するうえで貴重な資料である。
正倉院薬物の調査は過去に幾度か曝涼(ばくりょう)の際に行われてきたが、本格的な調査は、1948年(昭和23)から4年間にわたって、朝比奈泰彦(あさひなやすひこ)をはじめとする専門家グループによって行われた。それによると、帳内薬物のうち現存しているものは39種で、帳外薬物として24種が確認されている。失われたものの多くは治病のために出庫されたと考えられる。薬物はすべて外来品で、中近東や南方熱帯、ヒマラヤ地方などからシルク・ロードや南海路を経てもたらされたものもある。
[難波恒雄・御影雅幸]
『朝比奈泰彦編『正倉院薬物』(1955・植物文献刊行会)』