改訂新版 世界大百科事典 「比較優位」の意味・わかりやすい解説
比較優位 (ひかくゆうい)
comparative advantage
国々はなぜ貿易を行うのであろうか。ある国はなぜ自動車や鉄鋼を輸出し,石油や鉄鉱石を輸入するのであろうか。A.スミスやD.リカード以来,経済学者の間でこの疑問に答えようとする試みがさまざまな形でなされ,国際分業の理論として展開されてきた。比較優位という考えはリカードによって初めて明確に述べられ,以後国際分業の理論の中心概念となっている。各国は外国に比べて国内で割安に生産できる財に比較優位をもち,逆に他国に比べて国内で割高につく財に比較劣位をもつといわれる。各国は自国が比較優位をもつ財を輸出し,比較劣位をもつ財を輸入する。これが国際分業の理論の基本命題である。
この命題について,リカードにならって次の設例を考えてみよう。いま,鉄鋼および小麦1単位の生産について,自国ではそれぞれ100時間の労働と120時間の労働を要し,外国ではそれぞれ90時間の労働と80時間の労働を要するものとしよう。この設例では,自国の労働コストは両財の生産において外国のそれよりも絶対的に高いことに注意しよう。しかし,鉄鋼の小麦に対する相対コスト(比較生産費comparative cost)は自国で5/6,外国で9/8であり,自国のほうが外国より低いため,自国は鉄鋼に,外国は小麦に比較優位をもつ。したがって,貿易が開始されると自国は鉄鋼を輸出し,外国は小麦を輸出することになる。そのとき,各商品の内外価格は為替レートを仲立ちにして均等化し,鉄鋼の小麦に対する相対価格は貿易前の自国の5/6と外国の9/8の中間のある値に落ち着くと考えられる。以上の説を比較生産費説という。上記の設例は,鉄鋼と小麦という二つの財だけを取り上げ,それぞれの生産に必要な生産要素として労働だけを考慮した単純なものである。しかし,そこに示されている考え方は多数の財が多数の要素を用いて生産される世界にも適用可能であり,現代における国際分業の理論の基本原理となっている。
→国際分業 →貿易理論
執筆者:大山 道広
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報