鉄の原料として用いられる天然の鉱物で,鉄と酸素とからなる酸化鉄と総称される化合物と,シリカSiO2,アルミナAl2O3などの酸化物からなる脈石とを含んでいる。通常は高炉内に投入して酸化鉄に結合している酸素とその他の脈石分を取り除き,鉄分を溶けた状態の銑鉄として取り出し鋼の原料とする。鉄鉱石を鉱物学の観点から分類すると多種類にのぼるが,製鉄原料として用いられる天然鉱物は赤鉄鉱(ヘマタイト,α-Fe2O3),磁鉄鉱(マグネタイト,Fe3O4),磁赤鉄鉱(マグヘマイト,γ-Fe2O3),褐鉄鉱(リモナイト,Fe2O3・nH2O,n=0.5~4)に代表される。とくに赤鉄鉱の産出量が全世界的にみて圧倒的に多く,日本への輸入鉄鉱石の中でもその約80%を占めている。1997年現在,世界の主要国の鉄鉱石の埋蔵鉱量(粗鉱)は2320億tと推定されている。日本に輸入される鉄鉱石の平均鉄含有量は約63~64%であるので,銑鉄1t当り約1.5tの鉄鉱石が必要である。日本での鉄鉱石産出量はきわめて少なく,製鉄所での使用量の98%は輸入に頼らざるをえない。輸入先は1960年代の東南アジア,インド地区中心から,70年以降は日本での使用を前提として開発された鉱山の多いオーストラリア,ブラジル中心へと変遷している。
輸入された鉄鉱石は,高炉での使用前にその生産効率を高める目的で一定の前処理がほどこされる。これは予備処理あるいは事前処理と呼ばれ,整粒,ヤードブレンディング,塊成化に大別される。
(1)整粒 高炉では炉の上部から鉄鉱石とコークスを充てんし,下部から加熱空気を吹き込んでコークスを燃やし,一酸化炭素を含む高温のガスを発生させる。この炉下部で発生した高温ガスが炉内を上方に向かって流れていく過程で鉄鉱石が加熱され,鉄が取り出される反応が進行する。しかし,大きな塊鉱石と粉鉱石を混合して炉に充てんした場合には,その充てん層の空間率が小さくなって目詰りを起こし,ガスが上方に向かって順調に流れなくなる。このため製鉄所内では,鉱石の破砕設備とふるい分け設備を用いて,鉄鉱石を8~25mmの粒度範囲に調整している。
(2)ヤードブレンディング 日本のような鉱石輸入国では鉱石種が30種以上になる場合が多く,高炉での使用に際しては,それらを化学成分上均一にする必要がある。このため製鉄所では,荷揚岸壁近くに鉱石置場(鉱石ヤード)を設け,多種の鉱石を多層山積みする方法をとっている。この場合,各鉱石の量比(ブレンディング比率)は,その山の化学成分比が一定になるように決定される。この山から鉱石を払い出す場合には,山を構成する各鉱石種の切出し割合が一定になるような機械設備(リクレーマー)が採用されている。
(3)塊成化 鉄鉱山での鉱石採掘時および製鉄所での破砕,ふるい分け時には,当然鉱石粉が発生する。通常,8mm以下の鉱石を粉鉱石と呼んでいるが,これを直接,高炉で使用すると,前述のように炉内の目詰りが起こり生産効率が著しく低下する。したがって,これらに熱を加えて塊状にして(塊成化)使用する。代表的な塊成化鉱石はペレットと焼結鉱である。
(a)ペレットpellet 微粒粉鉱石(粒度範囲は44μm以下が60~95%,10μm以下が15~25%が望ましい)に水分(約10%)と粘結剤(約0.5%)を加えて造粒機内で10~15mmの球とした後,焼成炉内において1200℃前後の温度で焼き固め,冷却したものがペレットである。このペレタイジング法は,鉄含有量が低い(たとえば30~40%)磁鉄鉱を富化するため,粉砕,磁選などの選鉱を行うときに得られる微粒粉鉱石の塊成化法として開発された。
(b)焼結鉱sintered ore 粒度範囲0.1~8mmの粉鉱石に水分(5~6%)と粉コークス(3~4%)を加えて混合し,無限軌道状に動く火格子をもつ焼結炉(ドワイト=ロイド焼結機,またはDL焼結機と呼ぶ)の火格子上に30~50cmの高さに充てんする。それと同時に,充てん層内の粉コークスに点火し,下方への吸引空気によって充てん層の上方から下部まで連続的に粉コークスの燃焼を継続させる。その燃焼熱で粉鉱石どうしを溶融結合させた後,冷却したものが焼結鉱である。原料混合の際に,石灰石を添加した焼結鉱(自溶性焼結鉱と呼ぶ)は,高炉内で一酸化炭素によって鉄が取り出される反応が容易に進行し高炉の生産性を著しく高めるため,とくに日本では好んで用いられる。1980年代初頭の日本での高炉で使用される塊鉱石,ペレット,焼結鉱の割合は,それぞれ約15%,10%,75%である。
執筆者:槌谷 暢男
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…鉄鉱石から鋼をつくる工程をいい,前段の銑鉄をつくる工程を製鉄または製銑といい,後段の銑鉄から鋼をつくる工程を製鋼という。製銑,製鋼,さらに鋼材,製品製造までを行う銑鋼一貫製鉄所の工程例は〈製鉄所〉の項の図を参照。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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