民主主義市民連合(読み)みんしゅしゅぎしみんれんごう(その他表記)People’s Alliance for Democracy(PAD)

知恵蔵 「民主主義市民連合」の解説

民主主義市民連合

タイのタクシン元首相に反対する市民政治団体。People’s Alliance for Democracy(PAD)。2006年1月、タクシン首相一族の不正株取引疑惑が発覚。翌2月、元実業家・政治時評家のソンティ氏の主導の下、タクシン政権打倒を目指して結成された。同年9月の軍事クーデターでタクシン政権が倒れると活動を休止したが、08年2月にタクシン派のサマック政権が誕生すると再開させた。その後、サマック首相は副業禁止規定に反する違憲行為で失職したが、タクシンの義弟ソムチャイ氏が後継に指名されたため、PADは再び反政府活動を激化させ、観光地プーケットなど南部3空港を閉鎖させた。10月7日には警官隊と衝突し、死者2人を含む約500人の負傷者を出している。11月24日には臨時首相府も占拠し、政権の統治機能を停止させた。翌25日にはスワンナプーム国際空港封鎖。続いて旧国際空港のドンムアン空港も占拠し、海外メディアの目も集めた。一方、観光業を基幹とするタイ経済に打撃を与えた違法行為に国内メディアから批判の声はあがらず、治安当局も介入することはなかった。タイ・ポスト紙、バンコク・ポスト紙など主要紙の多くが、旧タクシン政権時代に露骨な資本介入や報道規制を受けたため、反タクシンを掲げるPADの空港占拠を支持したと見られる。タクシン派が農村の貧困層を支持基盤としているのに対し、PADは都市中間層からの支持が多い。マスコミ、都市住民に加え、PADは軍部司法も味方につけていく。12月2日には憲法裁判所が与党「国民の力党(PPP: People Power Party/ Phak Palang Prachachon)」党を含む3党に解党命令を出し、ソムチャイ首相から5年間の公民権を奪った。この司法命令によってタクシン派政権は崩壊。PADは「勝利宣言」を出すとともに、翌3日に両空港から撤収した。こうした司法判決による政権交代劇に対し、海外メディアの中には、料理番組の出演料を受け取ったことを理由に憲法裁判所から罷免されたサマック首相と同様、不可解な司法介入と疑問を投げかける論調も少なくない。12月15日に新政権の首相に指名されたアピシット氏は、PADの空港占拠を擁護したカシット元駐米大使を外相に起用することを発表した。

(大迫秀樹 フリー編集者 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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