翻訳|blockade
戦時において敵に属する,または敵の占領した地域,都市,港を外部とのあらゆる交通を絶つために攻(包)囲する作戦行動を一般に意味するが,海戦では,交戦国の海軍力(ときには空軍)で敵の港または沿岸部分の海上交通を妨害するための作戦をさす(海上封鎖)。海上封鎖は敵国の海上通商とくに中立国との通商の阻止をねらうもので,近世初期以降中立制度の発展に伴い,戦時禁制品制度と関連しつつ,交戦国に認められてきた交戦権の一種である。
交戦国は封鎖を侵破しようとするいっさいの船舶・貨物を捕獲,没収することが認められる。このような強力な権利が認められる反面,封鎖の成立には次の要件が満たされなければならない。まず,封鎖は実効的なものでなければならない。1856年のパリ宣言(海上法の要義を確定する宣言)は,港口の封鎖が有効であるためには実力を用いなければならないとした。1909年ロンドン宣言(海戦法規に関する宣言。未発効)は,ここにいう実力の意味について,〈実際に敵岸に接到することを防止するのに足りる充分な兵力をもつて維持することが必要である〉(2条)とした。さらに同宣言は,〈封鎖は,封鎖艦隊が荒天のため一時その場所を離れても,そのために解除されたものと認められることはない〉(4条)と定めて,停泊封鎖を必要とするか艦隊で出入を監視する巡航封鎖でもよいかの争いに一応の決着をつけた。もっとも,単に封鎖宣言を行うだけで実効性を伴わないいわゆる紙上封鎖あるいは擬制封鎖はいわば封鎖権の乱用であり認められない。さらに封鎖成立の第2の要件として,その開始日,地理的範囲等が明確に宣言され,告知されなければならないことがあげられる。ロンドン宣言は,各中立国および地方官憲に対する厳格な告知の規定(11条)をおいた。第3の要件として,国に対する公平性があげられる。封鎖による出入の阻止はその侵破を企てるすべての国の船舶・貨物を対象としなければならず,一定国(たとえば自国)の船舶に出入を認めることは許されない。
上記の諸要件を満たして封鎖が成立すれば,その後封鎖線の通過を試みるすべての船舶を封鎖国は拿捕することができる。もっとも船積人が載貨積込み当時,封鎖侵破の意図を知らないかまたは知りえなかったことを証明するときは,載貨の没収は免れる(21条)。
上記のような戦時封鎖のほか,平時に封鎖が行われることもある。平時封鎖は19世紀以降の比較的新しい制度である。この封鎖は,戦争状態が存在しないにもかかわらず,被封鎖国に対するいわば復仇の措置として行われるもので,交戦権の一種としての戦時封鎖とはその性質を異にする。平時封鎖の成立要件も,封鎖が実効的であることおよび第三国に告知されることについては,戦時封鎖の場合と変りはない。しかし,平時封鎖が第三国の船舶・貨物を捕獲,没収の対象としうるかについてはかつて争われた。1887年の国際法学会Institut de Droit Internationalの決議は,この封鎖を尊重しない被封鎖国の船舶は拿捕しうる(しかし,封鎖が解除されれば,その船舶と載貨は所有者に返還しなければならない)が,外国船は封鎖にもかかわらず自由に出入しうることを認めた。以後国際実行もこの決議にそっている。しかし,被封鎖国への艦隊の派遣は一種の武力による威嚇または武力行使に該当するともみられるから,これらを禁止する国連憲章体制の下で,平時封鎖はたとえ復仇措置としてもなお認められるかどうか疑問である。もっとも国連憲章上認められた措置(42条)としての封鎖は許容される。
なお,1962年のいわゆるキューバ危機に際して,アメリカがキューバにおけるソ連のミサイル基地建設に対抗してとった対キューバ〈隔離quarantine〉措置は,第三国たるソ連船舶の出入を阻止するもので,平時封鎖の枠を超えまた戦時封鎖としても説明できないから,封鎖措置としては国際法上正当化の根拠を有するとはいいがたい。
執筆者:藤田 久一
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
海軍力によって他の国の港や海岸への交通を阻止し、抑圧することをいう。国際法で封鎖といわれるものに、平時封鎖pacific blockadeと戦時封鎖blockade in time of warとがあるが、単に封鎖といえば戦時封鎖をさすことが多い。平時封鎖の場合には、封鎖線を越えた船舶のなかで、封鎖された国の船舶・積み荷のみを拿捕(だほ)・抑留することが認められるが、没収はできない。第三国の船舶・積み荷は拿捕・抑留することもできない。かつては平時封鎖が復仇(ふっきゅう)の手段として用いられたが、現在では復仇として武力を行使することは禁止されているから、平時封鎖も許されない。戦時封鎖の場合には、敵国の船舶・積み荷のみならず、第三国すなわち中立国の船舶・積み荷でも封鎖線を越えれば捕獲・没収される。その積み荷が戦時禁制品たると否とを問わない。敵国船舶は封鎖の有無にかかわらず原則として捕獲・没収されるから、戦時封鎖の基本的な機能はむしろ中立国船舶による対敵通商を阻止することにある。このように、戦時封鎖は中立法規に関連するものであったが、法理的にも実際上でもこの種の制度は凋落(ちょうらく)している。最近では、湾岸戦争におけるイラクに対する海上封鎖のように、国連安全保障理事会の決議に基づく制裁の一部として封鎖が行われた例がみられる。
[石本泰雄]
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