タクシン政権(読み)たくしんせいけん

知恵蔵 「タクシン政権」の解説

タクシン政権

1997年7月の通貨バーツの暴落に端を発した深刻な経済危機を緊縮財政政策などで乗り切ったが、株価低迷や大量倒産、大量失業など犠牲も多く、農村部だけでなく都市部中間層の間にも不満が高まった。その不満をうまく汲み取ったのが2001年総選挙時のタクシン率いる愛国党だ。タクシンは携帯電話ビジネスなどで成功、一代でタイ有数の実業家となり、94年に外相に抜てきされて政界に進出。98年には豊富な資金力で現職議員を集めて愛国党を旗揚げした。「経済が分かる実務家政権」が売り物で、景気拡大、農村改革、不良債権処理が三本柱だが、手法は企業の最高経営責任者(CEO)的発想と同時に大衆の要求に直接応えようとするポピュリズム的。05年2月の総選挙では愛国党が全500議席中377議席を獲得、下院選挙史上初の単独過半数を得た。だが、06年に入って首相一族のシンガポール系企業への株売却に絡む不正疑惑が浮上したことなどから野党勢力による辞任要求の動きが高まると、首相は下院を解散し、4月2日に総選挙を実施。主要3野党はボイコット、愛国党は過半数票を得たが大量の白票定員割れし、首都などで市民デモが繰り返され、首相は退陣意向表明。憲法裁判所は選挙無効の判断を下し、再選挙の予定だったが、9月19日夜、政治的混乱を収拾するとしてソンティ陸軍司令官率いる軍がクーデター実権を握り、タクシン政権は失権した。タクシンが外遊中のクーデターだった。同氏は、ロンドンなどを拠点に復帰の道を探っていたが、08年2月に親タクシンのサマック政権が発足したのを見届けて同月末、帰国を果たした。愛国党は07年5月、解党された。

(片山裕 神戸大学教授 / 2008年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

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