日本大百科全書(ニッポニカ) 「河上肇自叙伝」の意味・わかりやすい解説
河上肇自叙伝
かわかみはじめじじょでん
マルクス経済学者で、また社会思想家・文筆家として著名な河上肇の自伝。「たどりつき振り返り見れば山川を越えては越えて来つるものかな」。この歌は、彼が1932年(昭和7)日本共産党に入党したときの感懐であるが、その生涯はきわめて起伏に富んだものであった。本書は彼の幼年時代・少年時代、無我苑(むがえん)時代より労農党時代まで、共産党入党と地下活動時代、検挙・獄中生活と出獄後の「閉戸閑人(へいこかんじん)」(河上の雅号)の生活などの足どりを、半分は獄中で、半分は出獄後、発表のあてもなく書き続けられた。死去(1946)した1年後に出版。自伝は「科学的真理と宗教的真理の統一」を探究した「こころの歴史」、求道の遍歴を克明に綴(つづ)ったものとして、また同時代史としても迫力に富み、日本近代の伝記文学の最高傑作の一つにあげられる。
[和田 守]
『河上肇著『自叙伝』(岩波文庫)』▽『『河上肇著作集 第6、7巻』(1964・筑摩書房)』▽『塩田庄兵衛編『河上肇「自叙伝」の世界』(1984・法律文化社)』