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自叙伝 じじょでんautobiography

翻訳|autobiography

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

自叙伝
じじょでん
autobiography

著者自身が経験,見聞した事件を家庭的,社会的背景のなかで時代を追って語りながら,自己反省や感想を交えて記述するもので,全体として著者の精神的成長,遍歴をうかがうことができ,すぐれたものは文学としての価値をもつ。キリスト教的自己反省,近代的個人主義などが自叙伝の成立を促進することになったが,アウグスチヌスの『告白』とチェリーニの『自叙伝』はそれぞれの傾向を代表する作品であり,フランクリンの『自叙伝』はアメリカ人の独立独行の精神をよく示している。このほかルソー,ベルリオーズトルストイボーボアール,日本では新井白石の『折たく柴の記』をはじめ,福沢諭吉,河上肇らのさまざまな人たちによってさまざまな自叙伝や自伝的作品が書かれている。

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デジタル大辞泉の解説

じじょ‐でん【自叙伝】

自分の生い立ち・経歴などを、ありのままに自分で書いたもの。自伝。

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大辞林 第三版の解説

じじょでん【自叙伝】

自分で記した自分の伝記。自伝。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

自叙伝
じじょでん
autobiography

人が自らの生涯を回顧的に語ったもので、その人の精神的な成長過程、人格の発展などを叙述する文学形式。自伝ともいう。回想録、日記、自伝的エッセイ、書簡など自己を語る形式はほかにもあるが、はっきりした時間的枠組と語りの構造を備えているのが自叙伝の特徴である。回想録と自叙伝の違いはしばしば微妙だが、回想録がどちらかといえば、時代と社会の証人としての作者を前面に押し出すのに対し、自叙伝は作者の個人的な歩みを中心に書かれる。生まれてから現在の自分に至るまでの人生を全体的に語るのが普通だが、自我の形成を重視するという観点から子供時代と青年時代だけを描く自叙伝も少なくない。[小倉孝誠]

西洋


古代から17世紀まで
西洋における自叙伝の歴史は古代にまで遡(さかのぼ)る。紀元前4世紀のギリシアでは、将軍によって書かれた従軍記や法廷での演説がすでに自叙伝の機能を果たしていたし、書簡のなかで自分の生涯を語ることもあった。中世から近世にかけては、宗教的な作品が多い。その典型は聖アウグスティヌスの『告白録』で、放蕩(ほうとう)に明け暮らした少年・青年時代を経てキリスト教に目覚める劇的な体験が記されている。17世紀のイギリスやフランスでも、たとえばバニヤンの『あふるる恩寵(おんちょう)』のように、作者の霊的体験を中心とする自叙伝が数多く書かれている。また宗教的ではないが、彫刻家チェッリーニと数学者カルダーノの自叙伝は、ともに16世紀に生きたイタリア人によるルネサンス期の自由と奔放さを伝える作品になっている。[小倉孝誠]
18世紀以降
しかし本当の意味での自叙伝は近代になってから生まれた。人が自分の生涯を語ってそれを出版し、一般の人がそれを読むという情況はヨーロッパでは18世紀末以降に出てくる。フランスのルソーの『告白録』、イタリアのアルフィエーリ、イギリスのギボン、アメリカのフランクリンの自叙伝、そしてドイツのゲーテの『詩と真実』など、各国を代表する自叙伝が書かれたのがまさしくこの時代にほかならない。自叙伝に相当することばが一般に使われるようになるのはイギリスやドイツで1800年ごろ、フランスで1830年ごろだという。つまり、自叙伝が一つの文学ジャンルとして正当な地位を認められたのは19世紀に入ってからのことなのである。
 19世紀は自伝文学の傑作を次々と生み出した。スタンダールの『アンリ・ブリュラールの生涯』とアンデルセンの『わが生涯の物語』は作家による美しい自叙伝、ジョルジュ・サンドの『わが生涯の歴史』は女性作家の手になる貴重な作品、ミルとダーウィンの自叙伝はどちらも学者としての天職に目覚める過程を描いた知的な作品、『ベルリオーズ回想録』とチャイコフスキーの『一音楽家の思い出』は芸術家によって書かれた代表的な自叙伝である。
 20世紀に入ると、さまざまな人文科学とりわけ精神分析の影響のもとに、作者は自己について語ることにまつわる危険と虚構性を鋭く意識しながら、より方法的な態度で自叙伝を執筆するようになる。その傾向は、とりわけ文学者の自叙伝にはっきり現れている。ナボコフの『記憶よ、語れ』やサルトルの『言葉』がその好例であろう。作家、芸術家、学者だけでなく、作者の職業がきわめて多様化したのも20世紀の特徴である。ベーブ・ルースのようなスポーツ選手、チャップリンのような俳優、ベルイマンのような映画監督、カーネギーのような実業家など、あらゆる職業人が私語りの領域に進出してきた。そして現在では西洋でも日本でも、一般市民が自らの人生を語って本にし、自費出版するという「自分史」が静かなブームになっている。[小倉孝誠]

東洋

日本を含めた東洋において、近代的な自叙伝は西洋文化との接触の後に成立したといえる。ガンディーが『自叙伝』を執筆していた1920年代に、ある友人が自叙伝を書くというのは西洋特有の習わしであるからやめたほうがいいと忠告した、というエピソードが残っている。ガンディーと、やはり自叙伝を書いたインドのネルーは二人とも西洋体験が長い。中国では詩文や著作の序で自らの出自を簡潔に述べるという伝統は古くからあったが、統一的な語りとして自己を分析するという営みは、やはり20世紀に入ってから西洋文化の影響を受けた人たちによって行われた。胡適(こてき/フーシー)の『四十自述』や郭沫若(かくまつじゃく/クオモールオ)の『郭沫若自伝』がその例である。
 わが国では平安時代に「日記文学」があった。「日記」とはいっても、菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)の『更級(さらしな)日記』などに明らかなように、過去を追想しながら語る自叙伝の一種である。江戸時代には武士の自叙伝がいくつか書かれ、なかでも新井白石の『折たく柴(しば)の記』は回想録の性質をあわせもつ傑作である。日本で自叙伝が質量ともに大きく発展するのは、やはり西洋との遭遇を経てからの明治時代になってからで、福沢諭吉の『福翁自伝』や内村鑑三の『余は如何(いか)にして基督(キリスト)信徒となりし乎(か)』などが代表作である。その後大正・昭和時代にかけても、日本の自叙伝の傑作は教育家、外交官、社会運動家(たとえば河上肇(はじめ))、学者たちによって書かれたものが多い。現代作家の手になる自叙伝としては大岡昇平の『幼年』『少年』二部作が注目に値する作品である。[小倉孝誠]

なぜ自己を語るのか

ではいったい、人はなぜ自己を語るのであろうか。時代と文化によって多少の違いはあれ、自叙伝の作者に共通している動機は次のようなものである。まず自己認識への欲求。「自分はいったい何なのか」という問い、おのれを知りたいという気持ちが自叙伝執筆の根底に横たわっている。そしてそれは、自分の生に意味や価値があるはずだという意識とつながっている。第二に、過去を回想し、書き綴(つづ)ること自体が快楽をもたらす。自叙伝の作者は書くことによって、自分の人生を改めて生き直すことができる。第三に西洋人によくみられるケースだが、自己弁明の意志である。自分が誤解されていると感じたり、不当な非難を受けていると考えるとき、人はその誤解を訂正し、非難に反駁(はんばく)するためにペンをとる。そして最後に、自叙伝作家はときに、自分の作品が社会的・倫理的効用をもつと主張する。幾多の経験を積み、激動の時代を生きた者が自分の生涯を語ることは、読者にとって励みとなり、道しるべになるであろうという意識である。日本人の「自分史」にはこの動機づけがかなり強くみられる。[小倉孝誠]
『鹿野政直・佐伯彰一監修『日本人の自伝』全23巻、別巻2(1981~82・平凡社) ▽佐伯彰一編『自伝文学の世界』(1983・朝日出版社) ▽ライオネル・トリリング著、野島秀勝訳『「誠実」と「ほんもの」――近代自我の確立と崩壊』(1989・法政大学出版局) ▽ルイ・マラン著、梶野吉郎訳『声の回復――回想の試み』(1989・法政大学出版局) ▽ウィリアム・C・スペンジマン著、船倉正憲訳『自伝のかたち――一文学ジャンル史における出来事』(1991・法政大学出版局) ▽フィリップ・ルジュンヌ著、小倉孝誠訳『フランスの自伝――自伝文学の主題と構造』(1995・法政大学出版局) ▽川合康三著『中国の自伝文学』(1996・創文社) ▽小林多寿子著『物語られる「人生」――自分史を書くということ』(1997・学陽書房) ▽石川美子著『自伝の時間――ひとはなぜ自伝を書くのか』(1997・中央公論社) ▽『伝記・自叙伝の名著 総解説』改訂版(1998・自由国民社) ▽佐伯彰一編『自伝の名著101』(2000・新書館) ▽中川久定著『自伝の文学――ルソーとスタンダール』(岩波新書) ▽佐伯彰一著『近代日本の自伝』(中公文庫) ▽佐伯彰一著『日本人の自伝』(講談社学術文庫) ▽佐伯彰一著『自伝の世紀』(講談社文芸文庫) ▽色川大吉著『自分史――その理念と試み』(講談社学術文庫) ▽Georges GusdorfLignes de vie(1991, Odile Jacob, Paris)』

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