自伝(読み)ジデン

デジタル大辞泉 「自伝」の意味・読み・例文・類語

じ‐でん【自伝】

自分で書いた自分自身の伝記。自叙伝。「自伝的小説」
[類語]自叙伝

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精選版 日本国語大辞典 「自伝」の意味・読み・例文・類語

じ‐でん【自伝】

  1. 〘 名詞 〙 自分で書いた自身の伝記。自叙伝。
    1. [初出の実例]「司馬遷も史記のをくに自伝あるぞ」(出典:玉塵抄(1563)五五)

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改訂新版 世界大百科事典 「自伝」の意味・わかりやすい解説

自伝 (じでん)

自伝という言葉は新しいが,その由来,起源はすこぶる古い。英語のautobiographyが,現在各国で通用する呼び名の原語とほぼいえるようで,これは19世紀初頭にようやく使われ出した。しかし,5世紀の神学者,アウグスティヌスの《告白》は,その切実な内面性と描写力によって卓抜な宗教的自伝であり,1世紀のユダヤの軍人ヨセフスの《自伝》もまた,みずからにふりかかった汚名をそそぐことを目ざした自己弁護型の自伝の先駆にほかならない。さらに古く,中国の司馬遷の〈太史公自序〉があり,また古代の碑文,遺言などの中に自伝の発端を探り出すことも十分に可能だろう。自身の過去をふり返って,思い出を語り,また書きとめるというのは,実はきわめて常凡な人間的行為にすぎない。ただふしぎなことに,こうしたあたりまえで自然な振舞が,いわば文化的・文学的に公認されるまでに,ひどく手間がかかった。自伝の多くは,長く原稿のまま残され,後世が発見するという形で公刊されたもので,もともと秘められたもの,私ごとの性格が濃い。ヨーロッパで,自伝の源流が,宗教的な告白に存したというのも,これとつながる事情で,至高の神に向かうときはじめて,人は安んじて,内なる秘めごと,裸の私をさらけ出すことができた。裏側からいえば,率直な自己告白のためには,神の語りかけというしかけが必要であった。宗教的な告白自伝が,おびただしく書き残されたのは,17世紀のイギリスとアメリカであるが,まさしく清教徒革命,宗教的移民の時代というばかりでなく,すでに懺悔教会儀式としてとりこみ,制度化していたカトリック国と違って,告白への衝動を満たすためには,信仰日記や自伝がぜひ必要であった。すでに17世紀末には,信仰自伝の形をとりながら,実は自身の恋愛や武勲などを描いたものが現れ,18世紀に入ると,こうした世俗化の傾向がいっそう濃化して,詐欺師,悪漢の自伝から,カサノーバの《回想録》のような,快楽性あふれる性的自伝までものされるに至る。もちろん歴史家のギボン,アメリカの万能人的実務家フランクリンの自伝のような,いわば価値ある生涯の記録も出ているが,内なる秘めごと,裸の私の定着を目ざす傾向と,自身の業績の確認という意向とがからみ合い,重なり合う所に生まれたのが,ルソーの《告白録》,ゲーテの《詩と真実》という自伝文学の最高峰であろう。こうした動きが,詩や小説にも波動を及ぼし,また流入したのが19世紀から現代に至る趨勢といってよい。

 この点注目に値するのは,日本の自伝的伝統の根深さとその特質である。早くも平安朝に女流日記という形の優秀な自伝の輩出を見たばかりか,江戸時代にも山鹿素行,新井白石,松平定信などの武士をはじめ,町人学者の鈴木牧之,歌舞伎俳優の中村仲蔵,放浪僧の金谷上人など,幅広い階層にわたる自伝の輩出がみとめられる。しかも,ヨーロッパの自伝と異なり,その多くは,宗教,政治の色彩は希薄で,私生活に密着し,日常性が強い。これはやがて近代の私小説に受け継がれてゆく特色で,日本の根強くユニークな文学現象といえる。
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知恵蔵 「自伝」の解説

自伝

自らの人生や半生を回顧し、自らの筆により、生きた証を永遠のものにせんとして書き記したもの。通例、ローマの教父アウグスティヌスが回心に至るまでの半生を神に向かって告白した書、『告白録』(400年頃)をもって嚆矢(こうし)とする。近代に入ると、自伝は神への告白から、子孫あるいは後生の者に向かって、自己の存在の軌跡を提示し、その正当さをうたいあげるものへと推移していった。近代的自伝は、18世紀後期から19世紀初めにかけて、フランスのジャン=ジャック・ルソーによる『告白』(1765〜70年執筆)と『孤独な散歩者の夢想』(1776〜78年執筆)、独立期アメリカのベンジャミン・フランクリン『自伝』(1771〜89年執筆)において、そのふさわしい形が与えられた。19世紀には、ドイツのヨハン・ヴォルフガンク・ゲーテ『詩と真実』(1811〜14年執筆)、イギリスの哲学者・経済学者ジョン・スチュアート・ミルの『自伝』(1873年)、さらには近代日本の自伝の白眉、福沢諭吉『福翁自伝』(1898〜99年)など、優れた近代的自伝が輩出する。自伝も文学の1ジャンルであるという意味を込めて、自伝文学と呼ぶこともある。日本の私小説に典型的なように、一人称語りの文学は、多かれ少なかれ自伝的要素を含むので、自伝文学と自伝的文学の区別は容易ではない。その意味では、自伝ジャンルを成立させるのは、作者・読者間の約束事(作者=語り手により事実が語られている、とする)である、と考えておくのがわかりやすい(フィリップ・ルジュンヌ『自伝契約』、1975年)。回想録(memoirs)は、政治、外交、軍事、世相などの公の出来事、歴史を、当事者たる個人の立場から回顧したもの。

(井上健 東京大学大学院総合文化研究科教授 / 2007年)

出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報

百科事典マイペディア 「自伝」の意味・わかりやすい解説

自伝【じでん】

自分の精神成長の過程や諸経験を,物語風に自分で記述した伝記。回想録に比べ,私的な性格が強い。ルソーの《告白録》,ゲーテの《詩と真実》,フランクリンの《自叙伝》,新井白石の《折たく柴の記》はその例。
→関連項目伝記

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「自伝」の意味・わかりやすい解説

自伝
じでん

自叙伝

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