日本大百科全書(ニッポニカ) 「法隆寺裂」の意味・わかりやすい解説
法隆寺裂
ほうりゅうじぎれ
奈良・法隆寺に伝来した飛鳥(あすか)・奈良時代の染織品。その大部分は1876年(明治9)に皇室に献上された献納宝物品に属するもので、今日、東京国立博物館内の法隆寺宝物館に保管されている。また献上過程で一時東大寺の正倉院に保管されていた際に、その一部が正倉院裂に混入し、そのまま正倉院裂といっしょに保管されているものもある。法隆寺裂の特徴は、正倉院裂よりも時代的に先行するものが多いことで、聖徳太子の名を冠した多彩な絹絣(きぬがすり)「太子広東(かんとう)」や、膳妃(かしわでのきさき)所用と伝えられる御下帯(さげおび)「蜀江錦(しょっこうきん)」などはとくに著名である。蜀江錦は紅地の経錦(たてにしき)で、格子蓮花文(れんげもん)錦のほか、双鳳獅子唐草蓮珠文(そうほうししからくされんじゅもん)錦、亀甲繋(きっこうつなぎ)花葉文錦などがみられる。そのほか各種の緯(よこ)錦、浮文(うきもん)錦、綾(あや)、羅(ら)、縮絹(しじら)、きょう纈(きょうけち)、﨟纈(ろうけち)などに加え、糞掃衣(ふんぞうえ)とよばれる数色の絹をさまざまな形に台生地(だいきじ)の上に置いて「ぐし縫い」を施した袈裟衣(けさごろも)や毛氈(もうせん)類など、各種の貴重な染織資料があり、世界的に高く評価されている。
[小笠原小枝]