日本大百科全書(ニッポニカ) 「渋滞損失時間」の意味・わかりやすい解説
渋滞損失時間
じゅうたいそんしつじかん
交通渋滞の度合いを示す指標。本来、有効に使えたはずなのに、渋滞によって失われた時間を示す。渋滞損失時間の増大は、経済活動を阻害するほか、二酸化炭素や窒素酸化物などの有害ガス排出量を増やして環境悪化につながるため、その短縮が課題となっている。算出方法は、一人当り、1台当り、一定地域に住む人間全体などさまざまである。また、渋滞による損失額を示す指標として、渋滞損失額がある。
日本では、国土交通省が渋滞損失時間を試算・公表している。全国の道路の交通量を調査する道路交通センサスを基に、調査区間ごとに、渋滞がない場合の基準速度(人口密度の高い地区の一般国道では時速35キロメートル)と通過時間(基準旅行時間)を定め、混雑時との通過時間差を求める。この時間差に自動車1台当り平均約1.3人が乗車していると仮定して算出する。また、これに1時間当りの平均的就業者賃金をかけて渋滞損失額を算出する。日本全体の渋滞損失時間は、国土交通省の2002年(平成14)試算によると年間約38億人・時間(国民1人当り年間約30時間)であったが、2012年には年間約50億人・時間に増えた。渋滞損失額は約11兆円に達し、国民一人当り渋滞損失時間は年間約40時間で、これは年間の平均自動車乗車時間(約100時間)の4割に達する。欧米主要都市では、平均乗車時間に占める渋滞損失時間の割合は2割前後にとどまっており、日本は大都市の環状道路の整備が遅れているうえ、道路全体に対して高速道路の距離が短く、車線も少ないため、欧米よりも渋滞が起きやすいとされている。なお先進国では、アメリカのテキサス運輸研究所などが渋滞損失時間を定期的に公表しており、日本同様、アメリカ、ヨーロッパ、アジアでも渋滞損失時間が増大する傾向にある。このため渋滞時などの課金制度(ロードプライシング)導入のほか、全地球測位システム(GPS)活用による交通制御、自動運転車の実用化研究などが行われている。
[編集部 2016年1月19日]