日本大百科全書(ニッポニカ) 「濃色団」の意味・わかりやすい解説
濃色団
のうしょくだん
hyperchrome
有機化合物にある原子団を導入するとき、その色を濃くさせるような場合、すなわち注目している吸収帯のモル吸光係数を増大させるような原子団を濃色団という。その逆の場合が淡色団hypochromeである。たとえば、ベンゼンの紫外部にある吸収帯の極大は254.2ナノメートル(logε=2.36)であるが、メチル置換体であるトルエンは、深色効果のため長波長側へ移動するが、モル吸光係数はほとんど変わらず、261.5ナノメートル(logε=2.35)であり、同じようにクロロ置換体であるクロロベンゼンでは264ナノメートル(logε=2.40)であって、このときのメチルやクロロはベンゼンに対して濃色団ではない。これに対し、ヒドロキシ置換体のフェノールでは269ナノメートル(logε=3.34)、アミノ置換体のアニリンでは286ナノメートル(logε=3.28)、カルボキシ(カルボキシル)置換体の安息香酸は284ナノメートル(logε=2.90)で、それぞれヒドロキシ、アミノ、カルボキシ基はベンゼンに対する濃色団である。ただしこれらの濃色団がつねにそうであるわけではなく、ほかに対するとき淡色団になることもある。このような関係は有機化合物ばかりではなく、無機錯体中での中心金属イオンに対する配位子でもみられる。
[中原勝儼]