安息香酸(読み)アンソクコウサン(英語表記)benzoic acid

デジタル大辞泉 「安息香酸」の意味・読み・例文・類語

あんそくこう‐さん〔アンソクカウ‐〕【安息香酸】

安息香昇華して得られる白色針状結晶。最も簡単な芳香族カルボン酸防腐剤媒染剤・医薬品・合成繊維原料などに利用。化学式 C6H5COOH

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精選版 日本国語大辞典 「安息香酸」の意味・読み・例文・類語

あんそくこう‐さん‥カウ‥【安息香酸】

  1. 〘 名詞 〙 芳香族カルボン酸の一つ。安息香を加熱・昇華して得られるが、工業的に合成もされる。無色で鱗片状・針状の結晶。防腐剤・袪痰(きょたん)剤・媒染剤・安息香酸ナトリウムの原料などに用いる。安息酸。あんそっこうさん。〔模範新語通語大辞典(1919)〕

あんそっこう‐さんアンソクカウ‥【安息香酸】

  1. 〘 名詞 〙あんそくこうさん(安息香酸)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「安息香酸」の意味・わかりやすい解説

安息香酸
あんそくこうさん
benzoic acid

代表的な芳香族カルボン酸。昇華性のある無色の結晶。天然には、安息香中に遊離およびエステルとして存在するほか、ペルーバルサム、トルーバルサム中にもベンジルエステルとして存在する。実験室的にはトルエンを重クロム酸塩と硫酸により酸化すると得られる。工業的には、以前は無水フタル酸の脱炭酸反応により製造していたが、現在はトルエンの空気酸化により製造している。冷水には溶けにくいが熱水にはよく溶け、アセトンエタノールエチルアルコール)などの有機溶媒にもよく溶ける。食品衛生法により許可された防腐剤としてしょうゆに用いられているほか、媒染剤などに用いられる。そのほか、医薬として局所の殺菌・防カビ剤や角質軟化剤にも用いられる。水溶性のナトリウム塩は肝機能診断薬や防腐殺菌剤、清涼飲料水の保存料として用いられる。

[廣田 穰]


安息香酸(データノート)
あんそくこうさんでーたのーと

安息香酸

 分子式  C7H6O2
 分子量  122.1
 融点   122.5℃
 沸点   250.03℃(100℃以下で昇華)
 比重   1.316(測定温度28℃)
 溶解度  20℃ 0.29g/100mL水
      95℃ 2.75g/100mL水
 解離定数 6.4×10-5(25℃)

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改訂新版 世界大百科事典 「安息香酸」の意味・わかりやすい解説

安息香酸 (あんそくこうさん)
benzoic acid



最も代表的な芳香族カルボン酸。天然樹脂である安息香(ドイツ語でBenzoe)の加熱によって得られたためにこの名(ドイツ語でBenzoesäure)がある。天然には,安息香中に遊離の状態で存在するほか,ペルーバルサムやトルーバルサム中にベンジルエステルとして含まれる。融点122.5℃の無色鱗片状結晶。アルコール,エーテル,アセトン,熱水に易溶,水から再結晶される。水にわずかに溶けて酸性を示す(pKa=4.21)。100℃以上で昇華する。種々の金属と安定な塩を作るが,その多くは水に可溶。カルシウム塩を乾留するとベンゼンを生じる。また,ベンジルアルコール,ベンズアルデヒドの酸化やベンゾニトリルの加水分解によって得られるが,工業的には,トルエンを二酸化マンガンと硫酸で酸化するか,トルエンの塩素化によって得られるベンゾトリクロリドの加水分解によって製造される。医薬品の製造原料として重要であるばかりでなく,解熱剤や去痰(きよたん)剤としても用いられ,防腐剤としてしょうゆに添加されている。

 ベンゼン環のオルト,メタ,パラ位に種々の置換基をもつ安息香酸も同様の方法で合成され,よく似た性質を示す。
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化学辞典 第2版 「安息香酸」の解説

安息香酸
アンソクコウサン
benzoic acid

benzenecarboxylic acid.C7H6O2(122.12).C6H5COOH.安息香中に存在するのでこの名称がある.工業的には,トルエンの空気または硝酸酸化,ベンゾトリクロリドの加水分解などでつくられる.結晶.融点122 ℃,沸点250 ℃.熱水,エタノール,エーテルなどに可溶.酸として種々の金属塩,エステル,アミドなどをつくる.pKa 4.00(25 ℃).防腐剤,媒染剤,化粧品,香料などに使用される.LD50 2700 mg/kg(ラット,経口).[CAS 65-85-0]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「安息香酸」の意味・わかりやすい解説

安息香酸
あんそくこうさん
benzoic acid

化学式 C6H5COOH 。安息香 (天然樹脂の1つ) 中に存在する。融点 122℃。無色針状または小葉状の結晶。無臭かベンズアルデヒド様の臭いがする。工業的にはトルエンを塩素化し,ベンゾトリクロリドとし,次いで加水分解するか,無水フタル酸を水蒸気とともに熱した触媒の上に通して得られる。最近はトルエンの空気酸化によっても製造される。実験室的にはトルエンを硝酸または二クロム酸カリウムで酸化して得られる。冷水には溶けにくいが熱水にはよく溶ける。防腐作用があり,醤油や清涼飲料 (炭酸飲料も含む) に保存剤として,また膀胱炎や気管支炎治療に使用される。工業的には媒染剤として,学術上はアルカリ標準液の標定に使われる。

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百科事典マイペディア 「安息香酸」の意味・わかりやすい解説

安息香酸【あんそくこうさん】

最も代表的な芳香族カルボン酸。無色の結晶。融点122.5℃,沸点250℃,約100℃で昇華。熱水,有機溶媒に易溶。食品衛生法で許可された防腐剤であり,医薬品原料としても用いられる。天然樹脂の安息香に含まれるが,工業的にはトルエンを二酸化マンガンと硫酸で酸化するか,トルエンの塩素化によって得られるベンゾトリクロリドの加水分解によって製造。(図)
→関連項目合成保存料

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栄養・生化学辞典 「安息香酸」の解説

安息香酸


 C7H6O2 (mw122.12).食品の保存料として使う.

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